未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6章【未熟な社畜は悩みました】

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 大胆不敵、欲望がフルスロットル。俺はただ、呆然としてしまった。

 だが以外にも、最初に動いたのは草原君だ。月君に爆弾発言を剛速球で投下した後、すぐに草原君は肩に乗せていた手を引いた。

 それから、どことなく申し訳なさそうに……。


「──失礼いたしましたでございます。人前で突然肩を掴むなんて、破廉恥でございましたね」
「──いやいやいや! 今さっきの発言こそ破廉恥だよ草原君!」


 分からない! 悪魔の基準が分からないよ! 俺は愕然としつつ、しっかりと椅子から立ち上がった。

 なぜなら俺は、草原君と大事な話をしたばかりじゃないか。そのことを思い出し、俺は草原君に詰め寄った。


「あれっ、え、んん~っ? 前に『悪魔がセックスを強請るのはファンタジーなフィクションだ』って言っていたような?」
「センパイ? コイツとなんて会話をしているんスか? センパイ?」

「悪魔が生きるために男女問わず貪り尽くすように淫靡な行為に耽るのは、ファンタジーなフィクションでございます」
「ちょッ! 三日月も三日月でなにバカ真面目に答えてるんだよ!」

「じゃあ草原君は今、どうして白昼堂々と月君に迫っているのかな?」
「あっ。二人共、オレはスルーの方向なんスね……」

「──純然たる性欲と恋情が理由でございますが、なにか?」
「──なるほど~っ」
「──納得しないでくださいよ!」


 そうか、そういうことだったのか! 俺はようやく、草原君が取っていたここ数日間の言動を理解した。

 ここ最近、草原君が月君を求めてこっちの事務所に姿を現すようになったのは、純粋に【月君が好きだから】だったのか!

 えっ、なんだろうこの感じっ? 突然こう、胸の辺りがソワソワしてきたぞっ? だって今、目の前でラブなイベント真っ最中ってことじゃないか!

 しかも、相手は俺にとって大切な後輩同士! なんだか他人事とは思えず、俺は不謹慎だと分かっていながらも質問を重ねてしまった。


「えぇっと、つまり? 草原君は月君を抱きたいって話?」
「どうしてこの話題を続行するんスかセンパイ!」

「いいえ。僕は男を抱く趣味はございません。……つまり、竹力様に抱かれたいのでございます」
「なんで男に抱かれる趣味はあるんだよ! って言うか、馬鹿正直に胸を張って答えるな!」

「分かってないなぁ、月君。草原君は【男】じゃなくて【月君】がいいんだよ?」
「追着様の言う通りでございます。僕は【竹力様に抱かれる趣味】があるのでございますよ」

「──誰か助けてッ!」


 しかし、そうかそうか。草原君は月君が好きなのかぁ~。月君のいいところを沢山知っている俺としては、なんだかとても喜ばしい話だなぁ。

 ゆえに思わず、まるで親かのようなテンションで口を開いてしまった。


「確かに、月君はいい子だよね。いつも明るくて、何事もポジティブに捉えて前向きで、見ているとこっちも元気にさせてくれるような子だからね」

「さようでございます。竹力様はまるで太陽のような人間でございます。僕の趣味は人間観察でございますが、それでも竹力様以上に温かく朗らかで陽の気を持つ人間は見たことが無いのでございます」

「分かるなぁ~。月君っていつも一生懸命でさ、本当にいい子。だけどいい子すぎて、たまに心配になるんだよ。例えば、他人の相談を受けて相手に感情移入しすぎちゃってさ? 結果、月君の方が落ち込んじゃうんだよ。でも、そんなところも月君の魅力なんだよね」

「他者を捉えて離さず、いつも集団の輪の中心にいるのでございます。竹力様のそうした魅力は僕だけではなく、周りも気付いてしまうもの……。少々複雑な心境ではございますが、それでも不思議と竹力様への想いは増すばかりで──」

「──うわぁあッ! センパイに褒められるのは猛烈に嬉しいッスけど、でもやめてくださいッス~ッ!」


 俺のテンションについてくるどころか並走してくる草原君と、月君自慢開幕。だがそれは、月君本人によって早急にお開きとなってしまった。




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