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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むこれはさすがに、本格的に危ないかもしれない。ようやく、俺はそう気付いた。
大好きな子と、一緒に暮らしている。その贅沢さに感激している場合ではないのだと、今さらながらに痛感したのだ。
……否。本当は、分かっていた。だけど、分かっていないフリをしていたのだ。
冷静に考えたら、誰だって分かるはずだった。好きな子と一緒に暮らしていることが、どういうことを意味するのか。
試される、精神。試される、忍耐力。俺はカワイの保護者なのだから、カワイの身の安全を保障しなくてはいけない。その責任を持つと決めて、カワイを保護したのだから。
なんてことを考えてベッドに寝そべり、何時間も悶々と悩んで……。今の俺はと言うと。
「──あまり、眠れなかった……」
珍しく、いつもより断然早く目が覚めてしまった。時刻は……まだ、六時前か。
カワイはどうしているだろう。そう思い視線を動かすと、意外にもすぐに発見できた。まだ、俺の隣で寝ているのだ。
どうやら今日の俺は、カワイよりも先に起きたらしい。自分で言うのも情けない話だが、これは珍しいことだ。
……思えば、カワイの寝顔をまじまじと見つめたことはなかった。なぜなら情けない話、俺はカワイより早く起きたことなんてないのだから。
それでいて、カワイはかなりの夜更かしさんだ。本来カワイには【睡眠】が必要ないから、眠りにつくまで時間がかかるらしい。
それでもこうして眠っているのは、俺との生活に合わせてくれているから。苦手なお風呂も、必要が無い食事も、全部……。
「……カワイ」
カワイが普段から行動で示してくれている、優しさ。それを思うと、胸が締め付けられる。思わず漏れ出た彼を呼ぶ声に、どこか甘さのような色が乗ってしまうほどに。
俺は、この子が好きだ。好きで好きで、愛おしくて堪らない。再認識すると同時に、俺は無意識のうちに動いてしまった。
「──好きだよ」
──囁いた直後、カワイの額にキスをする。そんな動きを、かましてしまった。
唇にカワイの額が触れ、あまりにもリアルなその感触。実感すると同時に、俺は弾かれたようにカワイから顔を離した。
……なにを。なにをしているんだ、俺は。寝ているカワイの額に、勝手にキスするなんて。
「……起きてない、かな」
安心したような、少しだけ残念なような。俺は片手で顔を覆い、ため息を吐く。
恋って、厄介だな。それと、己の中にいる雄な部分と言うか、ケモノな部分と言うか……。
とにかく、恋愛とは厄介だ。己の中に在る醜さが、がん首揃えて姿を現してくるのだから。自己嫌悪に打ちのめされた俺は、動くことができなかった。
だから、気付かなかったのだろう。
「──ヒト、ボクが寝ている間に、なにかした? おでこに、なにかが触れたような……」
「──えっ」
カワイが寝惚け眼をこすって、俺を見ていることに。
即座に俺は、体をカチンと固まらせてしまう。血の気が引き、なんとも言葉にできない気持ちを抱いてしまった。
だが、カワイが訊ねているのに閉口はできない。俺は必死に頭を回転させる。
その間も、カワイは眠たそうにしながら俺を見上げていた。
「ヒト? どうしたの?」
「いや、そのっ。……起きてた、の?」
「起きてはいないけど、寝てもいない」
「むっ、難しい。……じゃなくて、あー、いや、えっと。……触り、ました。ごめんなさい」
「そうなんだ。触っただけなのに、どうして謝るの?」
「いや、本当に、すみません……」
駄目だ、言えない。答えられないのだから、カワイの疑問だってそのままだ。俺は多方面の申し訳なさから、ただただ思ったことを口にした。
「えぇっと、その……。……寝顔、可愛かったよ」
「っ。……あり、がとう」
明らかに、間違っている言葉だっただろう。数秒後、そう気付いた。
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