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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む俺とカワイは顔を見合わせて、それからアイスに目を向けた。
今の怖い話を受けて、さすがのゼロ太郎も頭上から[あー……]としか言えないらしい。いやはや、全くもって正しい反応だろう。
不思議と流れる、気まずい空気。生み出してしまった張本人として、俺は蛇足を付けることにした。
「いや、あのさ? 俺、半端者だけど一応は悪魔だよ? 普通、幽霊が見えるなら真っ先に俺じゃない?」
[悪魔と霊的な存在の因果関係は不明ですが、言いたいことは分かりますね]
「あの時は、なんて言うのかなぁ……。突然大きな事件に巻き込まれて、犯人が俺を捕まえて人質にしようとしたんだけど、俺と目が合うと『お前は、なんか違うな』って言われて解放されたような。そんな気分」
[それは……複雑すぎて、私には理解できない感情ですね]
おかしいな。さらに気まずい空気になった気がするぞ。俺はチラリと、カワイに目を向けてみる。
「……アイス、おいしいね」
「うん。おいしい」
どうやら、気まずさを感じているのはいつの間にか俺とゼロ太郎だけになっていたらしい。カワイの気持ちは、すっかりアイスに夢中だ。
そんなカワイを見て和むと同時に、俺はふと、あることに気付いた。
「──今さらだけど、カワイの寝間着さ。肌が出すぎて、エッチじゃないかな?」
「──えっ」
普段から半ズボンとは言え、寝る時は俺のシャツを着ているだけ。つまり、普段着よりも露出が多いのだ。
言葉を投げられ、カワイはキョトンとした。それから頬をほんのりと赤く染めた後、なぜか得意気な笑みを浮かべたではないか。
これは、どういう表情なのだろう。俺はジッとカワイを見つめ、本心を覗き込もうとする。
だが、それよりも先にカワイが動いた。
「──それは、ヒトがボクを性の対象として見てくれている証拠だよね」
そんな、突拍子もない言葉を添えて。
さすがの俺も、咄嗟に言葉を返せなかった。なぜならそれは、図星と言えば図星だったからだ。
そういう意味で伝えたつもりではなかった気付きだっただけに、まるで心の中にある恋情を見抜かれたみたいで……。なんと返すべきなのか、なにを言ってもいいのかが分からなかった。
だけど、カワイはやはり誇らしげだ。なぜか顔は赤いままだが、口角を上げて珍しく微笑んでいる。
「もっといっぱい、見てほしい」
「……っ」
どう、しよう。そんなことを言われるなんて、思っていなかった。
以前までの俺なら、きっと飛びつくようなハグを送っていただろう。そして、ノリノリで意気揚々と『見ちゃう見ちゃう~っ!』などと言えたに違いない。
だけど、今の俺には言えそうになかった。それはカワイが言った通り、俺の中に下心があるからだ。
なにも言わない俺を見て、カワイはなにかを思い出したらしい。持っていたカップアイスとスプーンをテーブルに置いて、俺と向き合ったのだから。
「そう言えば……ねぇ、ヒト」
「えっ。……あっ、えっと、なにかなカワイ?」
「ボクまだ、ヒトにご褒美あげてなかったよね」
ご褒美? ご褒美って、なんの話だっけ。
戸惑うこと、ほんの一秒程度。カワイはすぐに、答えを示してくれた。
「──仕事を頑張ったヒトを、ギュ~ッてする。そう約束したでしょう?」
言うと同時に、カワイは俺をギュッと抱き締める。俺は慌てて、カップアイスをテーブルに移した。
カワイとハグをするなんて、今まで何度もしてきたのに。まるで、体中の血液が沸騰するかのような。そんな感覚が、俺を襲った。
抱き合うなんてこと、初めてじゃない。なんなら、カワイよりも俺主導で抱き合ったことの方が多いくらいだ。
なのに、どうして。考えると同時に、俺は願う。
……嗚呼、どうか。どうか、お願いします。
「ヒト、温かい。なんだか、ボクの方がご褒美を貰った気分」
「そ、そう、なんだ。これが、カワイにとってのご褒美になるんだ……?」
「うん、なる。ご褒美になるよ」
──腕の中で微笑むカワイに、俺の心臓の音が聞こえていませんように。
まるで俺の願いを叶える流れ星かのように、カップアイスの表面に付いた水滴がつ、と。容器からテーブルへと滴った。
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