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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む気付けば【駄々こね】から目的がすり替わっている気もするが、俺は伝えずにいられなかった。
「もっとさ、こうさ? 希望って言うか明るめって言うか……とにかく! 誰も不幸にならない方向の提案をしてよ!」
「分かった、考える」
[尽力いたします]
俺も俺でどうかと思うけど、二人も二人でメチャメチャ真剣に取り組んでくれるのなんなの? こんなどうしようもないオーダーに対して、優しすぎてつらい。二人共、大好きだ。
俺の希望を聴いた後、二人は再度、数秒の思考。ポク、ポク、ポク。チーン、だ。
と言うわけで、テイクツー。
「仕事から帰ってきたヒトを、ボクがギュ~ッてするのと」
[主様の好物のレシピを私が検索し、それをカワイ君に作っていただくのと]
「[──好きな方をどうぞ]」
「──両方でお願いしますッ!」
やる気を出す方向で進めたかぁ~っ! 有能な悪魔と人工知能めっ! 大好きだ~っ!
すっかりやる気に満ち溢れた俺は、玄関へと向かう。靴を履き、そこから一度振り返って、俺は二人に向かって敬礼をした。
カワイが俺に敬礼を返し、ゼロ太郎は敬礼しているように見える顔文字をポコンと宙に表示。俺たち三人はまさに、息ピッタリだった。
さて、二人にあんなに素敵なことを言われたんだ。今日の俺はいつもと違い、自らの意思で玄関扉を開いた。
* * *
上機嫌で出勤し、仕事を開始して数時間。気付けば、昼休憩の時間になっていた。
就業時間中のみ眼鏡をかけている俺は、休憩時間と言うことで眼鏡を外す。そのまま体を伸ばし、脱力をする。
毎度のことだが、こう見えて俺は職場に情けない心は持ち込まない。いくら『仕事に行きたくない!』と毎朝駄々をこねているとしても、出勤してしまえば切り替えをする。
以上の点から、今日も俺は仕事に熱中。昼休憩を知らせる時計の電子音が鳴るまで昼になったと気付かないほど、デスクワークに集中していたようだ。
……それにしても、今日は月君がお休みだからなんとなく物足りない。いつも隣で切磋琢磨し合っている相手が不在というのは、なんだか寂しさを感じてしまう。
でも、今日は帰ったらカワイとゼロ太郎が俺にご褒美をくれるからな。思わず、俺はニマニマと口角を上げてしまう。
なんてことを考えつつ、意味もなく隣のデスクに目を向けていると……。
「──上機嫌そうでございますね」
背後から、俺宛てと思われる声が聞こえた。
この声は……。すぐに俺は、声が聞こえた方向を振り返った。
そこに立っているのは、整った顔立ちの青年だ。そしてその青年は、俺と同じようにスーツを着ている。つまり、同業者。
しかも……。
「おはようございます、追着様。必要な魔力はきちんと補充できてございましょうか」
社内で唯一、社長と人事担当者以外で俺が【悪魔と人間の混血】だと知っている相手。
そして、月君の同期でもある男の子。
「あぁ、草原君。お疲れ様っ」
小声で送られた挨拶に、俺は笑顔と普段の声量を返す。
そう。彼こそが、この会社で働く【悪魔の青年】──三日月草原君だ。
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