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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むカワイのおかげで素敵な晩酌をすることができ、俺はとても幸福な気持ちで眠りについた。
だから今朝はスッキリとした寝覚めで……。
「眠い……。あと、五分……」
……では、なかった。全然、俺はいつも通りの俺だ。
朝がこんなに怠いのは、なぜなのだろう。仕事のために起きなくてはいけないと思えば思うほどベッドから降りられないのは、きっとそういう仕組みのなにかがなにかして、なにかがあって……。……ぐぅ。
と言うわけで、俺は普段と変わらず二度寝をしようと目論む。目を閉じ、宣言通りの五分睡眠を試みたのだ。
……だが、目を閉じていても感じるものがあった。
「分かった」
相槌を打ったカワイから注がれる、まるで『ジーッ』と擬音が付きそうなほどの視線だ。
俺は閉じていた瞳を開き、感じる視線の方を向いた。
「……えっと、カワイさん? どうして、俺の顔をジッと見つめておられるのですか?」
「ヒトが五分寝るなら、ボクは五分ヒマになる。だから、ヒトが五分間を有意義に使うように、ボクも五分間を有意義に使おうとしている。以上」
「な、なるほど?」
丁寧な説明をしながらも、カワイは床に座ったまま俺を見つめている。ベッドの上でだらけ切っている俺を、ジーッと見ているのだ。
……そ、そうか。カワイが俺を見つめているのなら、俺が五分間寝ていても起こしてくれるかも? う、うん。そう思えばね、ほら。俺もカワイみたいに、五分を好きに使っても……。
使っても、いいのでは……。
……。……えーっと。
「──すみません、起きます」
「──うん。おはよう」
負けたよ、負けた。カワイには敵わない。
そんなこんなで、今日も俺はカワイのおかげで起床。ゼロ太郎が[素晴らしいです、カワイ君]と絶賛しているが、俺はなにも言わないぞ。
起きた俺は、カワイが作ってくれた朝ご飯を食べることにした。ちなみに、本日の朝ご飯はと言うと……。
「ほっけのおむすび──つまり、ほむすび」
「可愛い」
ほむすび、らしい。お味噌汁とお野菜も用意されていて、とても美味だ。いつものことながら、カワイとゼロ太郎には頭が上がらない。
そんなこんなで順調に出勤準備を終えたものの、俺はまたしてもいつもの持病を患う。
「あ~あ~。こんなに暑いのに仕事なんてしていられないよねぇ~。会社に行かなくてもいい方法ないかなぁ~」
その名も、駄々こねだ。……チラリ。
「ねぇ、カワイ。カワイは魔界の学校で頭良かったんでしょ? なにか考えてよぉ~」
「分かった、考えてみる」
「ゼロ太郎も、世界最高レベルの人工知能なんでしょう? 頑張るご主人様のために、いい方法を考えてみてくれよぉ~」
[承知いたしました]
ポク、ポク、ポク。チーン。数秒後、二人が二人なりのベストアンサーを口にしてくれた。
「ボクが魔術で会社をぶっ壊すのと」
[私が非の打ち所が一切ない退職届を出力するのと]
「[──好きな方をどうぞ]」
「──選択肢が極限すぎる」
夏の暑さも吹き飛ぶような提案を真顔でするのはやめてくれないかな。ゼロ太郎の表情は分からないけど、俺は切実にそう願ってしまった。
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