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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む身の潔白を証明しつつ、俺は服を着直した。不思議と、シャワーを浴びる前より汗をかいた気がするぞ。
だが、今思うと……カワイがあんなに大きな声を出したのは初めてな気がするなぁ。そう思えば、なんだかちょっぴり得をした気分になる。
まぁ、そんなことは置いておこう。俺は服を着た後、ソファへと移動する。そして、ソファの背もたれにダラ~ッと背中を預けた。
「あぁ~……。それにしても、夏はヤッパリ暑いね~。溶けちゃいそうだよ」
「えっ、それはイヤ。困る」
「待ってカワイ。どうして俺に両手の平を向けているの? まさか、魔術かなにかで俺を冷やそう……なんて、思ってないよね?」
前にカワイ、俺が『魔術で冷やして』って言ったら『内臓を凍らせるかも』とか言ってなかったっけ? なのになぜ? なぜ手の平を向けるのかな?
俺はゆっくりと、それでいて恐る恐る、カワイの手を下ろさせる。
「ありがとう、ありがとうね。気持ちは、気持ちだけはありがとう」
「うん。……手、もう少しこのままがいい」
「このまま? うん、分かったよ?」
なぜかカワイは、手を掴まれているこの状況を気に入ったらしい。悪魔の感性はちょっと不思議だ。こちらとしては、好きな子に触れている状況は嬉しいが。
なんにせよ、手繋ぎは続行。俺たちはこのまま、会話を続ける。
「にしても、暑いといつもより体力を削がれる感じがしてさぁ。寒いのも好きじゃないけど、夏の暑さも参っちゃうなぁ」
そう言い、俺は少ししてからカワイの手を離す。すると、カワイは少し考えてから頷いた。
「分かった。じゃあ、ちょっと待ってて」
すぐにカワイは俺が座るソファから離れ、キッチンに向かう。そして、なにかを探し始めたようだ。
あまりジロジロと見つめるのも良くないだろうし、少し視線を外そう。俺はキッチンに向けていた目を前方に戻し、ボーッとした。
こんな暑い日には、ちょっと思う。カワイは純正悪魔だからか、暑さや寒さに耐性があるらしい。だから、そんな子を見ていると少し思ってしまう。
俺がもっと、悪魔の血を濃く継いでいたら。そうすれば、暑さや寒さに耐性が付いていたのかなぁ……なんて。
まっ、いいんだけどさ。俺は俺だしね。それに、悪魔の面が強くなったからと言って、それがいいことばかりじゃないって分かるし。
などなど。考えごとをしていると、どうやらカワイが戻ってきたらしい。
「お待たせ、ヒト」
「あっ、カワイ。おか──」
振り返ると、同時。カワイが手に持つ缶から『カシュッ!』と気持ちのいい音が鳴った。
それは、その缶は……!
「ボクはジュースだけど、それでもカンパイ……してくれる?」
──夏の夜のアイドル、おビール様じゃないかぁ~っ!
「わぁ~いっ! 飲む飲むっ、するするぅ~っ!」
すかさず俺は立ち上がり、カワイが持つ謎の缶──魅力満点なおビール様を受け取る。そして、すぐにカワイと共にソファへと座り直した。
俺に賛同されて嬉しく思ってくれたのか、カワイはほんのりと口角を上げて頷く。それからカワイは、両手で持ったぶどうジュースの缶を俺に向けた。
と言うことで、やることはひとつだ。
「カワイとゼロ太郎と俺のなにかしらに、かんぱ~いっ!」
「カンパイ」
[フワッとしていますね]
俺たちは夏の夜に、なんとなくめでたい気持ちになりながら乾杯をした。……カワイが缶を下げて乾杯をしたことは、気にしないようにしながら。
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