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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むブラックコーヒーが甘く感じるほどの幸福を得た後、俺たちは談笑を交えつつコーヒーを飲み切り、マグカップを片付けた。
そして、順番にお風呂へと入る。先にカワイ、後で俺だ。この順番は揺るがない。俺はカワイの後がいい。理由は訊かないでほしい。ゼロ太郎に幻滅されるから。
そんなこんなで、お互いのお風呂上がり。俺はふと気になり、カワイに近付いた。
「ねぇねぇカワイ。脚のこの、模様が付いたところ。ここって、触られたらどんな感じ?」
俺が指を指しているのは、カワイの左脚──厳密に言うと、太腿だ。
カワイの脚には、不思議な模様がある。円を描き、その周りを点が囲い、ひし形のようなマークも描かれて……。カワイの脚だからそう感じるのかもしれないけど、うん。可愛くて、だけどどこか気品を感じる模様だね。
俺の問いに対し、バスタオルでポフポフと自分の髪を撫でているカワイは、特にテンションの起伏を見せることなくサラリと答える。
「特に、なにも。反対の脚と変わらないよ」
「そうなんだ。……触ってみてもいい?」
「うん」
即答か、ありがたい。無警戒で無防備なところは心配に思う要素だけど、そんなところも好きだ。
しかし、いいのかっ! そんな、嬉し恥ずかしストロベリーな展開! いいのかっ!
……コホンッ! それでは早速、カワイの気が変わってしまう前に、遠慮なく。俺はすぐに、カワイの魅惑な生足ならぬ生太腿へと手を伸ばした。
そのまま、カワイの脚をするりと撫でて……。
「おぉっ、これは……!」
お風呂上がりだという事実を抜いても、スベスベのモチモチじゃないか! 同じ男の脚とは思えない! なんだこの魅惑の肌触りは!
模様云々は、一先ず保留。俺はカワイの脚を手の平で堪能し始めた。
スベスベしていて、けれど【太腿】という単語に偽りがないと象徴するかのように、ほど良い弾力。しかし硬すぎず、ほんのりモチモチ。華奢で細身だが、間違いなくこれは太腿だ。
だが、膝は……うん、膝だ。皮膚に覆われているが、きちんと硬い。
カワイの脚は、人間と変わらない手触りだ。温かくて、そして──。
「ヒト、あの……」
「ん?」
カワイの脚に対する感動やら考察やらを続けていて、ふと。カワイに呼ばれたことで、俺はようやく気付いた。
「──ちょっと、恥ずかしい……かも」
──カワイが赤面している、ということに。
さすがに、長く触りすぎたようだ。あのカワイが赤面するなんて、よほどのことだろう。俺は慌てて、カワイの蠱惑的な太腿から手を離す。
「わっ! ごっ、ごめんね! しつこかったね、ごめん!」
「う、ううん。平気。ボクこそ、ちゃんと『いいよ』って言ったくせに、ごめんなさい」
きっ、気まずい! これは、どうにかカワイの意識を【カワイの脚】から逸らさなくては!
慌てふためく俺は、必死に打開策を考えた。
「えっと、どうしよう! えっと、えーっと……! ……俺のも、触る? なんちゃ──」
「──うん、触る」
「──即答かぁ~」
苦肉の策が、まさかそんな飛びつかんばかりの勢いで成功するとは。いや別に、嫌じゃないけどさ。
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