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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む俺が一人でドタバタと騒がしいのは、割といつものこと。カワイは淡々と夕食の配膳を済ませていたらしく、部屋着に着替えた俺を見ても特段なにも言わなかった。
それもそれで俺という男がどうかと思うのだが、仕方がない。日頃の行いなのだから、素直に受け止めよう。なぜだか妙に、打ちのめされた気持ちだ。
まぁ、それはそれってことで。俺はいつも以上に感謝を募らせながら、食卓テーブルに並んだ料理を眺めた。
「いつも本当にありがとう、二人共」
「どうしたの、ヒト。どうして口を押さえて俯いているの?」
「──込み上げている最中です……」
「──吐きそう、ってこと?」
あらぬ誤解を受けてしまったようだ。椅子に座っていたカワイが立ち上がり、俺の背中をさするほどに。
おかしい。大きな感謝を抱き、それを伝えたかっただけなのに、なぜ。おかしな展開に戸惑いつつも、どこか楽観的な自分が『カワイに背中をさすってもらえているなんて、ラッキーすぎる!』と、この状況に喜び勇んではしゃいでいた。我ながら、もう少し自重してほしい。
カワイに無事だと伝えた後、俺はふと、職場で交わした月君とのやり取りを思い出した。
「そう言えば。ゼロ太郎が選んでくれたコーヒー、おいしかったよ。月君も大絶賛」
[はい、すぐそばで聞いていました。お気に召されたようで、なによりです]
自分の椅子に戻った後、俺とゼロ太郎の会話を疑問に思ったらしいカワイが口を開く。
「コーヒー? って、なに?」
[こういった見た目の飲み物ですよ]
ゼロ太郎は瞬時に反応。ネットで検索したであろうコーヒーの画像を、パパパッと宙に映し出す。
たぶん、ゼロ太郎はカワイの好奇心が嬉しいんだろうなぁ。ゼロ太郎の迅速すぎる反応を見て、微笑ましい気持ちになってしまうぞ。……なんて言ったら、おそらくゼロ太郎にメチャメチャ小言を言われるんだろうな。黙っておこう。
俺の心情なんて、露知らず。カワイは映し出された画像を見ながら、またしても好奇心をキラキラと輝かせた。
「飲んだことない。おいしいの?」
なんて可愛い瞳だろう。完敗なので、乾杯させてください。
カワイのキラキラおめめを脳裏にしっかりと焼きつけつつ、俺は返事をした。
「俺は好きだけど、カワイにとってはどうだろう? 好き嫌いが分かれるからなぁ」
「飲んでみたい」
「カワイならそう言うと思った。俺としては全然いいんだけど、この時間に飲んだら目が冴えちゃわないかな?」
「どうして?」
今度は、ゼロ太郎が返事をする。
[とても簡単に説明いたしますと、人間はコーヒーに含まれるカフェインという物質を摂取すると目が冴えてしまうのです]
「ふーん。脆弱だね」
この反応を見るに、カワイ……と言うか悪魔は問題がないってことなのかな。ちなみに、俺は全然平気だ。カフェインを摂取しようと、俺の睡眠欲は欠片も損なわれない。並みの睡眠欲とは面構えが違うのだ。
ということで、俺とカワイの意見は一致した。
「じゃあ、ご飯を食べ終わった後で一緒に飲もっか。鞄の中にまだあるはずだから、後で淹れるよ」
「うん」
あ~っ、嬉しそうなカワイ、可愛いなぁ~っ。これは、コーヒーで乾杯するしかないねぇ~っ。喜ぶカワイを見て、俺の白米は進む進む。
無論、ゼロ太郎が冷酷な声で[主様?]と俺を呼ぶので、俺は【カワイ萌え】をなんとか堪えたのだった。
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