未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
133 / 212
5.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔の恋バナです】

1

しおりを挟む



 先日の【追着陽斗が太ったのでは? 騒動】が落ち着いて、数日。


「今日の晩ご飯もおいしい。俺は今、食物だけではなく幸せも噛みしめている。あぁ~、幸せぇ~っ」


 メンチカツの中にスクランブルエッグが入っているオシャレな料理を頬張りながら、俺はニコニコと笑っていた。

 あの騒動が落ち着いてからというもの、俺は日々、カワイとゼロ太郎が用意してくれる料理に感謝をしまくっている。

 カワイにも話した通り、俺が育った家庭環境というものはお世辞にも『良いもの』とは言えない。正直、母親──あの人の手料理なんて、ひとつとして記憶に無いほどだ。
 それでもこうしてすくすくと育ったのは、やはり俺の出生が理由だろう。悪魔の血とは、それほど丈夫な遺伝子のようだ。

 まぁ、とにかく。そんなこんなで俺は【家族】というものに強い憧れがあった。今もずっと、その存在に強く焦がれている。

 そんな俺にとって、家族が作ってくれる料理というものは言葉にできないほど嬉しいものなのだ。それはもう、普段はゼリー飲料しか摂取していなかった俺が、満面の笑みで「ご飯のおかわりをください!」と懇願するほどに。

 だが、例の騒動が終わってからというもの。この日々に、俺は新たな喜びを見つけてしまった。


「はい、ヒト。ご飯のおかわりだよ」
「わーいっ! ありがとう、カワイ!」


 それは、この子──カワイへの気持ちが理由だ。

 この、状況。カワイが料理をしてくれて、カワイが俺のためにご飯をよそってくれて、カワイが俺を見てくれて……。つまり、要約するとこうなる。

 ──好きな子と過ごす日常って、贅沢すぎやしないか? という話だ。

 家族が作ってくれるご飯というだけでプレミアすぎるのに、そこに【好きな子】という属性が盛られた。ご飯で例えるなら、白米の大盛りだけでもテンションが上がるのに、てっぺんに梅干しが添えられたようなものだ。もう、ルンルンではないか。


[今、主様が訳の分からない例え話を唱えたような……]
「そうなの? 気付かなかった」


 一先ず、ゼロ太郎とカワイの会話をスルーさせてもらおう。突っかかれば最後、俺は泣く気がする。

 ……まぁ、とにもかくにも、だ。

 俺は今現在、とても贅沢な日々を過ごしている。よそってもらったご飯をムシャムシャと食べ進めながら、俺は幸福も噛みしめているのだ。
 素晴らしいじゃないか、日常。素晴らしいじゃないか、恋愛。俺は今、幸福の絶頂だ。

 ……いやまぁ、あれだよ。カワイと両想いになったわけではないとか、そもそもカワイとはただの同居人であって恋人とは違う関係性だとか……。まだまだ、俺とカワイの関係は【保護者と保護対象】ってところだけども。

 それでも、今の俺はハッピーなのだ。恋愛にキャッキャウフフする女子高生たちの気持ちが分かるほどに。


「……ヒト、最近いいことあった?」
「えっ! なっ、なんでっ?」
「最近、いつも以上にニコニコしてる気がするから」


 浮かれているのがカワイ本人にバレてしまうほどに、俺はハッピーだった。


「『いいこと』って言うか……うん、そうだね。最近、今まで以上に『幸せだなぁ』って思うことが増えてさ」


 俺の正面に座ったカワイは、浮かれている俺の顔をジーッと見ている。
 それから……。


「ヒトが嬉しいと、ボクも嬉しい。だから最近は、ボクも今まで以上にいっぱい幸せだよ」


 ニコリと、それはそれは可愛い笑顔を向けてくれた。
 途端に詰まる、俺の胸。俺は呻きながら、苦しいほどに締め付けられた胸を押さえる。


「──ありがとう、カワイ。寿命、延びた気がする」
「──そうは見えないけど」


 結論。今日もカワイが可愛い。……結局のところ、俺の根本は変わっていないのかもしれない。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
※※7話の部分に6話が重複して投稿されてしまっていたのを修正しました。大変失礼致しました※※ 「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

処理中です...