未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
132 / 212
5章【未熟な社畜は自覚しました】

25

しおりを挟む



 と言うわけで、帰宅後。俺は月君とゼロ太郎から告げられた衝撃的な真実を、すぐさまカワイにも共有した。

 すると、カワイの反応は俺の想定に反していて……。


「──ヤッパリ、顔色だったんだね。ヒトは『太った』って言ったけど、なんだかそれだとピンとこなくて……」


 カワイが言っていた『ヒトの変わったところ、イコール、顔』と言うのは、月君と同じように【顔色】という意味だったらしい。

 カワイは俺の変化に対して【体重の増加】という答えでは納得できず、なんならモヤモヤすら抱いていたようだ。

 月君とゼロ太郎によって【顔色】という答えを提示されてモヤモヤが解消された今、カワイはどことなく晴れ晴れとした顔を浮かべていた。


「でも、良かった。太りすぎてヒトが死んじゃったらどうしようかと思って、すごく不安だったから」
「カワイ……!」


 なんていい子なんだろう。感動だ、感謝だよ。だから、小脇に抱えたお酢のボトルはどこかに隠してほしいかな。

 俺はカワイからお酢のボトルをそっと奪い取り、フルフルと首を横に振る。カワイは頷いて、俺からボトルを受け取った。

 それからカワイは、なぜかしょもんと落ち込み始める。嬉しそうに揺れていた尻尾が、床につくほど垂れ下がった。


「ごめんね、ヒト。もっと早くそれが分かっていたら、今日の晩ご飯はもうちょっとカロリーを足せたんだけど……」


 食卓テーブルを見てみると、びっくり仰天。なんだか、青々とした料理が並んでいるではないか。

 まさかの、野菜まみれ。それと、コンニャク。……そう言えば『やみつきになるコンニャク料理をマスターする』とか言っていたような。


「ううん、いいんだよ。俺を想って用意してくれたっていう事実が、俺にとっては本当に感謝感激だから」


 落ち込むカワイの肩に、ポンと手を置く。それから俺は、カワイに感謝を伝えた。
 だって、そうじゃないか。俺のためを想って作ってくれた料理に、不満なんてあるはずがない。俺はカワイに、そう伝えたかった。

 どうやらそれが、カワイに伝わったらしい。カワイは顔を上げて、お酢が入ったボトルをギュッと抱いて──。


「──そう? じゃあせめて、このお酢だけは片付けておくね」
「──ちょっと待って? もしかしてカワイ、本気で俺にお酢一本飲ませようとしてたのっ?」


 カワイ、恐ろしい子……! 今日中に『太り過ぎではない』って気付けて良かったよ。

 まぁでも、いい機会ではあったかな。自分の体を見つめ直せたし、なんだかんだでカワイと楽しい時間を過ごせたし、それに……。


「でも、ジムにはまた行きたい。ダイエットが理由じゃなくても、ヒトと一緒に行きたい」
「うん、俺もだよ。カワイとなら、ジム以外のどこまでだって一緒に行きたいなっ」


 カワイへの気持ちに、気付けた。だからこの騒動は、全く無駄じゃなかったと思う。

 ……さて。そんなこんなで、翌日のこと。俺の体に対する誤解も解けて、我が家の食卓は平穏を取り戻した。


「今日の夕飯は、トンカツとポテトサラダ。それに、豆腐とネギのお味噌汁だよ」
「ヤッター! 俺の大好物だよっ! 食べる食べるぅ~っ!」


 昨晩のように野菜縛りの料理が用意されることはなく、俺たちは茶色のご飯も食べられ──。


「──あと、たくあんと水菜のサラダ。お酢を使ってるよ」
「──お酢……」


 ……まぁ。お酢が完全になくなったわけでは、なかったけど。




5章【未熟な社畜は自覚しました】 了




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...