未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
130 / 228
5章【未熟な社畜は自覚しました】

23

しおりを挟む



 翌日の、月曜日。


「と言うわけで。昨日は近所のジムで運動してみたけど、ダイエットって大変だよね。月君の筋肉は努力の賜物だなぁって、改めて尊敬しちゃった。偉いね、月君は。本当に偉いし、すごいよ」


 隣に座る後輩──月君の素晴らしさに、俺はただただ感心してしまった。

 出勤するや否や俺の話を聞かされた月君は、締めの言葉を受けると同時にソワソワと落ち着きを失くしていく。


「えっ、えっ? 月曜の朝から、尊敬するセンパイに褒められたっ? わっ、わわっ! メチャクチャ嬉しいッス! あざッス!」


 うおっ、眩しい! 月君が太陽みたいな笑顔をっ! 俺は月君の輝く笑顔を直視できず、思わず目の辺りを手で覆ってしまった。

 しかし、努力を褒められると嬉しいのは分かる。そして、その喜びを狙ったわけではないにしても引き出したのは俺だ。俺は月君の笑顔を、ライフで受ける。

 ニコニコ笑顔な月君は、月曜日の憂鬱さなんてどこ吹く風。とても爽やかに、俺を見ていた。眩しい、存在が眩しい。『俺も頑張ろう』と思わせてくれる素晴らしい後輩君じゃないか。

 だが、月君は俺の話に思うところがあるようだ。コテンと小首を傾げたかと思えば、俺の顔をジーッと凝視してきたのだから。


「それにしても……センパイ、言うほど太りましたか? 最近『顔色が良くなったなぁ』とは思ってましたけど」

「うん、太ったんだよ。ゼロ太郎が驚愕する程度には、太ったんだ……」
「マジすか。人工知能が驚くくらい太ったんスか」


 うぅ、そんな目で見ないで。恥ずかしさを感じた俺は、顔をそっと両手で覆う。

 落ち込む俺を見て、月君はなにか閃いたらしい。突然、花火かと錯覚してしまうくらい『パンッ!』と大きな音を立てて、両手を合わせた。


「そうだ! オレで良ければ、センパイ用のダイエットメニューを考えましょうか?」


 なん、だと? 俺は慌てて、首を左右にブンブンと振る。


「えッ? うッ、ううんッ! 遠慮するねッ!」
「そんな、遠慮なんていいんですよ。オレ、そういうの考えるの好きなんで」

「いやいや遠慮じゃなくて! 無理ッ、無理だよ! 無理なんだよ!」
「まだ案すら出していないのに、なんでそんなに全力で……」


 月君がしょぼくれてしまった。これは、なんと言うか罪悪感が募る表情だ。今すぐ『ヤッパリお願いしようかな~?』と言いたくなってしまう。そんな顔だ。

 だが、そんなことを冗談でも言ってみろ。俺の体はきっと、とんでもないことになる。
 なぜなら──。


「──普段運動をしていない奴に【会社のデスクにプロテインを常備している人の運動メニュー】をこなせるはずないでしょ!」


 月君のデスクには、まるでインテリアのようにプロテインの袋が置いてある。なんなら、デスクに付属されている引き出しの一番下──つまり、一番スペースが広いボックスの中には大袋のプロテインが収納されているのだ。

 しかし、月君は俺の危惧に気付いていない。むしろ、なにやらポジティブな解釈すら始めてしまった。


「大丈夫ッスよ、センパイ! 最初はキツくても、徐々にそれが感動や快楽や興奮に繋がり、最終的には最高にハイな気分になれますから!」
「えぇッ! なにそれ怖いッ! プロテイン怖いーッ!」


 危うく俺は、月ーズブートキャンプを始めさせられるところだったとか。体は大事にしよう。本気で、本当に、マジで!




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

幼馴染に振られた少女と家族を失った孤独な少年の慰め合い同盟〜いつの間にか離れられなくなってしまって〜

めのめむし
恋愛
高校1年生の羽山涼は、家族が亡くなったことで意気消沈をしていて、クラスにも打ち解けないで、陰キャぼっちな高校生活を送っていた。 母の死から49日がたち気分が変わった涼は今までとは違う生活をすると決心する。 そんな時、学校でトップクラスの美少女、栗山奏が失恋で傷心した上に強引なナンパにあって、困っているところを助ける。 お互いの境遇を明かしあった2人は意気投合し、お互いの愚痴を聞き合う、慰め合い同盟を結ぶ。 学校で仲良く話したり、お互いの家を行き来したり、デートに行ったり、2人の距離はだんだん近くなってくるが、奏は失恋から立ち直っていないため、お互いギリギリの線で踏み込めずにいる。 そんな時、涼が本当はイケメンだということが発覚し、急に女子にモテるようになる。涼は気にしていないが、奏は気が気でない様子。 心のどこかで失恋を引きずりながらも、涼に迫ってしまうという矛盾した行動に涼も奏本人も翻弄されてしまう。 やがて、奏が失恋を完全に乗り越え、涼も自分に素直になった時、2人は離れられないほど、お互いを求める関係になっていた。 会話中心 描写少なめで進行していきます。苦手な方はお避けください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...