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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟むそれからも、俺たちは様々な筋トレ器具を試してみた。勿論、真剣に。
この施設内に設置された筋トレ器具全てを試し、筋肉に負荷をかけ、心なしかここに来た時よりもムキムキになってきたかなと思った、その頃。
「あっ。髪ゴム、切れちゃった」
ポニーテール姿で運動に臨んでいたカワイが突然、ストレッチ中にそう言った。
顔を上げたカワイは確かに、結んでいた髪が解けてしまったらしい。いつもの見慣れたカワイになっている。
「結び直さないと……」
そう言い、カワイは手首に付けていた髪ゴムを引っ張った。そして、すぐさま髪を結び直そうとする。
おぉ、これはなかなか。髪を結ぼうとするその動作を見て、俺の胸はキュンと高鳴る。なぜだろう、とても可愛い。
しかし俺は、ピコンと閃いてしまった。
「カワイ、カワイ。こっちに座って?」
名前を呼ばれたカワイは手の動きを止めて、俺を見る。『なんで?』と言いたげな目だ。当然だろう。
なので、カワイを呼んだ理由を口にする。
「俺がカワイの髪を結びたいなぁ~って。駄目かな?」
「ダメじゃない、嬉しい」
応えるや否や、カワイは俺に言われた通りに移動を始めた。そして、素直に俺の前に座ったのだ。なんという信頼の厚さだろう。感激だ。
俺はカワイの髪を手でまとめて、カワイから髪ゴムを受け取り、一括りにする。……それにしても、だ。
いつも俺と同じシャンプーやらリンスやらを使っているのに、どうしてこんなに触り心地が違うんだろう。遺伝だと言われたら、それまでだけどさ。
細くて、柔らかくて、綺麗。カワイの髪は、魅力的だ。
……どうしよう。なんか、心臓が騒がしい、かも? 運動をした後の脈拍とはまた違うような、似ているような……。
ここはなにか、会話をしなくては。俺はカワイの髪をまとめながら、話題を振る。
「そう言えば、俺の後輩の月君なんだけどさ。あの子、ガッシリしたいい体してるんだよ」
「筋肉がすごくすごい、ってこと?」
「そうそう。趣味が筋トレなんだって」
まとめた髪を、髪ゴムで束ねて、っと。……よし、完成だ。
「たぶん、月君に訊けば効率的なダイエット方法とか教えてくれる気がするなぁ。別に月君はボディビル選手を目指しているってわけじゃないけど、俺よりは知識があるだろうし」
「……ふーん」
髪から手を離し、俺はカワイの頭を一撫でする。
俺に髪を結ばれるために俯いていたカワイは相槌を打った後、ポツリと呟いた。
「ヒトは、その……ツキって人間のこと、どう思ってるの? ……もしかして、好──」
「──長男」
「──えっ」
カワイがなにか続ける前に、俺はスパッと答えてしまう。俺が月君を、どう思っているかを。
「月君は一人っ子だから長男なんだよ」
「長男……」
先に月君をどう思っているのか気にしたのはカワイなのに、なぜだろう。俺を振り返ったカワイが、腑に落ちていない顔をしているのは。
もしかして、あらぬ誤解をされているのだろうか。俺は辺りをキョロキョロと見渡し、近くに誰もいないことを確認する。それからそっと、カワイの耳元で囁くようにして付け足した。
「俺、弟属性の年下にしかそういう意味では興味ないからさ」
「そう言えば、前にもそう言ってたね」
ようやくカワイが納得してくれたような頷きを見せてくれたので、どうやらカワイが知りたかったのはこういうことだったらしい。理由は分からないけど、カワイが満足したならなによりかな。
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