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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む乗り物酔いから復帰した俺は、どうせならと筋トレ器具が置いてあるスペースに移動した。
「機械の使い方とか、どの筋肉のトレーニングなのかとか……。結構細かく書いてあるんだね」
「うん、丁寧。すごくすごい」
脚とか、腹筋とか、肩とか……。種類が多すぎて、なにから試してみるべきかが悩ましいなぁ。
とりあえず、一番近くに置いてある機械から。俺は機械に座り、図を見ながら使ってみることにした。
「なるほど、この足場を押せば重りが持ち上がるのか。下半身の筋トレってことだね」
「ヒト、頑張って」
重さを調節して、足場を踏んで……。……それを十回繰り返して、カワイと交代だ。
カワイの脚の長さに椅子を調整した後、カワイは俺と同じ重さで足場を踏んだのだが。
「これは、軽いね。もう少し重たくする」
……なんだと。カワイ、意外と筋肉あるのかな。そう言えばこの前、カワイとこんな会話をしたっけ。
それは、いつぞやのこと。カワイが食パンにジャムを塗ろうと、ジャムが入った瓶を手に取った時だ。
『カワイ、大丈夫? 瓶の蓋、開けられ──』
『──えっ?』
俺の心配と、ほぼ同時。カワイはガポッと、瓶の蓋を余裕で開けられたのだ。
『『……』』
しばらく二人、無言で見つめ合ってしまった。カワイには俺の心配が聞こえていて、俺はカワイの余裕っぷりを見てしまったのだから。
開いた瓶と、俺の顔。カワイは交互に視線を送った後、眉尻を下げた。
『ビンのフタ、開けられない方がヒトの好みだった?』
『いや、あのぉ~。……格好いいのもいいなって、ちょっぴり思っちゃいました』
『それなら良かった』
回想、終了。そう言えば、こんなこともあったよなぁ。
ということは、もしかして。カワイが俺と同じく十回の筋トレをした後、俺はすぐにカワイの手を引いた。
「えっ、えっ? ヒト、あのっ、手……」
「カワイ、ちょっと」
別の筋トレ器具のそばまでカワイを引っ張り、さっきと同じように俺が先に実践。カワイにもすぐに同じ器具で筋トレをさせるけど、ヤッパリ俺より負荷を重くしている。
それを、他の器具でも繰り返して……。……ほほう、なるほど?
「──よぉし、そろそろ本気を出そうかなぁ。カワイ、勝利の気分は味わい尽くした?」
「──いつから勝負になっていたのかも分からないけど、でもヒト、本気じゃなかったの?」
俺の小さなプライドが、ボボッと燃えてしまった。
小さくて可愛いカワイが、俺よりも筋力があるなんて。それはそれで萌えるけど、いやしかし、俺には大人としてのプライドが。
なんて思いは露知らず、カワイからはキョトンと、ピュアで無垢な瞳を向けられた。そうされると、さすがに俺も罪悪感のようなものを抱いてしまう。
うっ、さすがに大人気なかったかな。なんてことを考えると、カワイは俺を無垢な瞳で見つめたまま……。
「──じゃあボクも、今から本気出していい?」
「──嘘でしょ?」
こちらも俺と同じく、ボボッと闘志を燃やし始めたではないか。
ちなみにこの後、メチャクチャ叩きのめされた。もう大人気ないことはしません。ごめんなさい。
……ちなみに、さらにこの後。
[──筋トレ器具で遊ばないでください。体に悪いです]
「「──ごめんなさい」」
ゼロ太郎に怒られてしまった。ごめんなさい。
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