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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む俺たちは雑談を挟みつつ、ペダルを漕ぎ続けた。画面を見るに、二十分ほど経ったらしい。
折り返し地点を超えてもなお、俺たちは元気にエアロバイクでの運動を続けた。
「今日は、たくあんと水菜のサラダを作るね。酢を使うサラダ」
「一気飲みより断然ありがたいよ。気にしてくれてありがとうね、カワイ」
「人間は太りすぎると健康に悪いって聞いた。ヒトには長生きしてほしい」
「思ったよりも先を見据えた気遣いだった」
なんて優しい悪魔なのだろう。気遣いのレベルが段違いだ。
涼しい顔でペダルを漕ぎながら、カワイはテレビ画面から俺の顔に視線を移した。
「でもヒト、本当に太ったの? アゴは二重になってないし、お腹だってつまめなさそうだよ?」
「そうなんだよねぇ。太った気が全くしない。でも、体重計が壊れていたとも考え難いしなぁ~」
ゼロ太郎もビックリしていたって点を踏まえると、ヤッパリ事実として太ったんだろうな。
今はまだ運動をすればすぐに痩せるだろうけど、年を重ねるとそれも難しそうだし。……うん。ヤッパリ、運動をするのは正解だ。
でも、サラダ三昧のご飯か。想像すると同時に、俺はカワイをチラッと見た。
「カワイが作る料理ならなんでもおいしいし嬉しいけど、サラダばっかりなのはちょっと寂しいかなぁ」
ピンと、カワイの尻尾が立つ。心なしか、ちょっと嬉しそうだ。
「じゃあ、今日は冷やしゴマ汁も作る。……ナスビ入りの」
「野菜はマストなんだね」
なんだか、むしろ申し訳なさすら感じてくるなぁ。よし、絶対に痩せよう。
「ところで、カワイは好きな食べ物とかないの? お菓子以外でさ」
「ピザ。おいしかった」
「ゼロ太郎が出前を呼んでくれたあのピザだよね? じゃあ、また今度出前を取ろっか」
人間界でカワイが初めて食べたご飯だし、思い出深いもんね。そう思い、俺はホッコリした気持ちで出前を提案した。
だがすぐに、カワイがムッと眉を寄せたではないか。……あっ、そうだよね。俺、今はダイエット中──。
「──それなら、ボクが作る。ゼロタローとボクに作れない料理なんてないから」
「──なんて素晴らしい自信だろう。楽しみだ」
ただの対抗心だったかぁ~。そんなところも可愛い。
「それにしても、あれだね。たまには、こうして体を動かすのもいいものだねぇ~」
「うん、楽しい」
「そっか、良かった~」
漕ぎ漕ぎ。ただペダルを漕ぐという単純な動きだけど、普段全く運動をしていない俺からすると十分すぎるスポーツだ。
「でも、無理はしちゃ駄目だよ。これでカワイになにかあったら、俺がゼロ太郎にどやされちゃうし」
「うん、分かった。気を付ける」
「あと、俺が生きていけなくなる。カワイになにかあったら、俺は俺を赦せない」
「分かった、もっと気を付ける」
俺の顔が相当マジだったのか、カワイの尻尾が驚いたようにピンと立った。それと同時に、何度も何度もカワイは頷く。
カワイのピザをおいしく食べるためにも、カワイになにかが起こってしまわないためにも、必ず痩せよう。俺はまたしても、決意を固めたのだった。
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