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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟むとは言っても、インストラクターさんがいるわけではない。
ここのジムは曜日によって催しがあるらしいけど、今日はそういったものがないらしい。利用者は各々が使いたい器具を使って運動をしたり、ストレッチができるスペースで柔軟運動をしたり、筋トレをしたり……。自由な様子だ。
常連になると受付の人やジムの担当者さんに声を掛けられて運動メニューを組んでもらえるらしいけど、俺もカワイも初心者だからね。『とにかく、目についた道具を色々使ってみよう』という精神だ。
ということで、俺たちは準備運動を始めた。小さなスペースに移動し、柔軟を始める。
クッション性のある敷物の上に二人で座り、先ずは前屈をしてみることにした。俺たちはぶつからない程度に少し離れ、脚を広げつつ伸ばす。そのまま、柔軟運動を始めた。
……始めた、のだが。
「──いだだッ」
「──ヒト、体硬いね」
前屈をするだけで体が悲鳴を上げている気がする! 痛い! すっごく痛いよ!
両脚を広げて、みょ~んと前に倒れるだけ。それなのに、俺の体はちっとも前に倒れてくれやしない。股関節とかミシミシしちゃってるよ、なんでっ?
それに比べて、カワイはすごい。まるで液体かのようにみょ~んと上体を前に倒しつつ、柔軟運動をしている。
その状態のまま、カワイは顔を上げた。そして、ほんのりと心配そうに俺を見つめる。
「……背中、押す?」
「お願いします……」
カワイの申し出に、全力で乗っかった。最早、プライドなんてあったものじゃない。
カワイはすぐに立ち上がり、俺の後ろに回る。そして「押すね」と前置きしてくれた後で、俺の背中を押してくれた。
だが、俺の体はちっとも前に倒れない。これには、さすがのカワイも……。
「──やる気ある?」
「──満々だよっ!」
ドン引きだ。後ろにいるから顔は見えないけど、これは確実にドン引きされている。俺は俺が情けなくて仕方なかった。
……なんて感じで、カワイの助力を受けつつ柔軟運動を終えたのだが。
「ヒト、まだ準備段階だよ?」
俺は息を切らしていた。ゼェハァだ。なんかもう、体が悲鳴を上げている。
お、おかしいな? 俺、こう見えて学生時代は野球部に所属していたのに。どうしてこんなに、こんなに……。
……やめよう、悲しくなる。それに、今日は俺のダイエットが目的なんだ。こんな初手から、俺自身が弱音を吐いてどうする。
気を取り直してから、俺は心配そうにしているカワイに頷きを返す。
「よ、よしっ。ここから、ここからだね……!」
「なんだか、全メニューをこなした後のスポーツマンみたいだよ」
くそぉ~っ、情けないぃ~っ。俺は心の中で気合いを入れ直し、ストレッチルームから離れた。
「先ずは、そうだなぁ……」
なにから始めようかとキョロキョロすると丁度、スタッフが機械を掃除し終えていた。二人分の空きもある。
俺たちは先ず、エアロバイクを使うことにした。
「初めて見るけど……うん。使い方は簡単そうだね」
お互いにジム初心者だけど、ここは俺がしっかりとカワイのサポートをしよう。ジム経験はゼロでも、俺には人間界で培ってきた経験と知識がある。
ということで、俺は早速エアロバイクに跨った。そして、すぐに設定ボタンを押そうとする。
……だが、その前に。
「──ヒト、先ずは脚の長さにイスを調整しないと」
「──すみません」
初歩的なところをカワイに指摘されてしまった。うぅ、格好つかないなぁ~。……エアロバイクだけに、空回りってね。
[──さ、寒いです……]
「──やめて触れないで!」
ゼロ太郎のツッコミに心を抉られつつ、俺とカワイはエアロバイクを漕ぎ始めた。
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