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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む昨日はジムに向かうため、ジャージやシャツや靴を揃えた。俺の分だけじゃなく、カワイの分もだ。
その流れでカワイと日用品の買い物なんかもしちゃって、充実した休みを満喫したりして。土曜日は、穏やか且つハッピーに終わった。
しかし、これでドレスコードはバッチリ。翌日の日曜日、俺とカワイは遂にジムデビューを果たした。
「ここが、あの女のハウスね」
[お金は貸しませんよ]
ゼロ太郎の準備もバッチリだ。今日もツッコミが冴え渡っている。
まぁ『ジム』とは言っても、町営のちょっとした施設だ。運動器具は揃っているけど、テレビのコマーシャルでよく見るようなガチガチの感じではないし、広さもそこそこ。構える必要はナシ。
俺とカワイは建物の前で互いの顔を見て、同時に頷く。どうやら、カワイも気合い満点らしい。
ちなみに、事前の下調べも完璧だ。
「中に入ったら、先ずは渡される受付用紙に氏名と住所と連絡先を書くよ」
「うん。それで、ロッカーのカギを借りて荷物を更衣室にしまっておく」
「おっと、忘れてた。受付の前に、外靴から中靴に履き替えなくちゃね」
「飲み物が足りなくなったら自動販売機で買おうね」
ゼロ太郎が集めてくれた情報を復唱し、俺とカワイはもう一度お互いの顔を見て、力強く頷き合う。
そんな俺たちの会話を聞いていたゼロ太郎が突如、スマホを通してポンと喋った。
[もしかして、お二人共。……緊張していますか?]
「「──当然」」
[──先が思いやられますね]
いざ、出陣! 俺とカワイはピッタリと寄り添い合いながら、初めてのジムへと足を踏み入れた。
……が、その時だ。
「……あっ。ヒト、どうしよう」
「どうしたのっ?」
まさかのトラブル発生かっ? 俺はすぐさま、不安そうに俯いたカワイを見た。
カワイは恐る恐ると言った様子で顔を上げ、俺が着ているジャージの裾を引く。それから、申し訳なさそうにポソポソッと呟いた。
「──ボク、住所も連絡先も分かんない。あと、文字はまだ勉強中で……」
「──俺が代筆するね!」
特に問題ナシ! 今度こそ、いざ出陣!
建物の中に入り、運動器具が置いてある二階のスペースへと向かう。その場には既に、数人の利用者がいた。
カワイは……うん。ジムに対する不安はありそうだけど、人間に対しての緊張とかはなさそうかな。さすがカワイだ。
外靴を脱ぎ、中靴へ履き替え。すると愛想のいい受付さんから紙を渡されたので、カワイの分もペンを滑らせた。
事前情報通り、受付用紙を渡すと等価交換かのように鍵を渡される。俺とカワイは辺りを見た後、すぐに男子更衣室へと向かった。
「さすがゼロ太郎だね。情報に狂いがない」
「うん、さすが。スムーズに忍び込めた」
「いや言い方」
横目に他の利用者を眺めつつ、俺とカワイは言葉を交わす。
渡された鍵に書かれた番号のロッカーを開けて、荷物をしまい込んで。……よしっ。これで、準備万端だ。
「カワイ、大丈夫? 飲み物は持った?」
「うん。ヒトはゼロタロー持った?」
「飲み物もゼロ太郎もバッチリだよ」
「カギも失くさないように気を付けようね」
お互いの意識も確認し合い、俺たちは顔を見合わせて頷き合って──。
[──お二人共、やはり緊張していますね?]
「「──当然」」
お互いの緊張を、感じ合ったのであった。……ドキドキだ。
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