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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む「──つまりヒトは、太ったことを気にしているってこと?」
「──有り体に言っちゃうと、そういうことかなぁ……」
カワイに妄想劇場の内容を全て打ち明けた後、俺は受け取ったコップに入っていた水を一気に呷った。
「俺、本当に今までこんな経験無かったからさ。ちょっと、自分自身でもこの驚きを持て余しちゃって……」
「分かるよ。同じ学校に通う同年代の悪魔が魔術で空を飛んでいたから『自分も飛べる』と思って崖から飛び降りたのに、気付けば両脚が崖下の川に浸かっていた……みたいなことだよね」
「──うん、それは俺が分からないかな」
そういうこと、なのかな。と言うかカワイ、そんな経験があったんだ。無事で良かった。
リビングの床にシュンとしたまま座り込む俺を見て、カワイは腕を組む。それからカワイは、天井を見上げた。
「人間って、どうしたら痩せるの?」
[手っ取り早いのは食事の改善ですね]
「じゃあ、ヒトが太ったのはボクのせい?」
[いえ、カワイ君は悪くありません。私が用意したメニューやレシピに間違いはありませんし、カワイ君の作業工程にも問題なんてありませんでしたから]
凄まじい自信だ。いつもありがとう。
落ち込む俺を置いて、ゼロ太郎はカワイにアドバイスを送る。
[食事の改善として、提案をいたします。酢は、内臓脂肪を減少させる助けになりますよ]
「じゃあヒト、酢を一気飲みして?」
「ごめんね、それじゃあ死んじゃうんだよ」
もしかしてカワイ、内心ではメチャクチャ俺の心配をしてくれているのかな。よく見ると、小さくだけれど尻尾の先端が忙しなく揺れている。
「冷蔵庫には、大根と玉ねぎがある。野菜と、酢を混ぜて……サラダにすればいい?」
[野菜ばかりだと飽きてしまうかもしれませんので、海産物と酢を和えるのも良いかもしれません]
「海産物……。タコと、お味噌汁用のワカメならある」
[では、明後日はそれらを使った料理を作りましょう]
当の本人である俺を置いて、どんどん話が進んでいくなぁ。空になったコップを握ったまま、俺はカワイと天井──ゼロ太郎を交互に見やるしかできない。
[腸の働きを促進するために、こんにゃくもオススメです]
「分かった。ヒトがやみつきになるコンニャク料理をマスターするね」
[仕事の合間にと用意していた甘味も、脂肪分の多いものではなくラムネにいたしましょう]
「分かった。来週の出勤日までには間に合わせるね」
「わぁ~、頼もしいなぁ~……」
二人のやる気が、この問題の主犯である俺を置いてどんどん加速している。むしろ、申し訳なさすら湧いてくるほどだ。
「ということで、ボクたちに任せてね、ヒト」
[お任せください、主様]
「あー、うん。すごく助かるぅー」
二人がサポートをしてくれるのなら、体重なんてあっという間に元通りだろう。
……でも、本当にこれでいいのかな。二人に任せっきりで、俺自身はこのままで。本当に、それでいいのかな。
「大丈夫だよ、ヒト。ボクもヒトと同じご飯を食べるし、お菓子もラムネにする。二人で同じ食事なら、つらくないからね」
[飽きがこないよう、レパートリーは豊富に揃えます。お任せください]
「……う、ん。本当に、ありがとうね」
やる気満々な二人を見ながら、俺は空になったコップをジッと見つめて、考え込んだ。
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