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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む今まで、食事はほとんどゼリー飲料ばかりだった。
デスクワークが基本で運動らしい運動はしていなかったけど、かと言ってカロリーを大量に摂取していたわけでもない。どちらかと問われずとも、俺の食生活は【不健康そのもの】だったと思う。
そんな俺の生活が一変して、早三ヶ月。まだ雪が残っていた三月から、気付けば季節は初夏へと突入していた。
生活が変わったのは三ヶ月前だけど、食生活が変わったのは二ヶ月前──つまり、カワイが料理を覚えてくれたあの日から。俺は、かなり健康的な食生活を過ごしていただろう。
しかし、日々の活動内容は全く変わっていない。つまり、運動量はちっとも増えていないのだ。
不健康そのものと呼べる食生活から、健康的な食生活へ。冷酷な言葉を遣うのなら、カロリーを摂取するようになった。
それなのに、運動量──つまり、カロリーを消費していないのなら? 導き出される答えは、ひとつだけ。
[──まぁ、太りますよね。普通に考えて、はい]
「──でっすよねぇ~っ」
結論、そういうことだ。俺はゼロ太郎に相槌を打ちながら体重計から降り、後ろに立つカワイを見た。
「ふふふ、さすがカワイだね。俺の変化に──俺自身も気付いていない変化に気付くとは。恐れ入ったよ、ありがとう」
「ヒトの目、死んでる。でも今、ボクはお礼を言われた。……悲しまれているの? 喜ばれているの?」
「知らない間に着々と体重を増やしていた自分に悲しんでいるのと同時に、カワイが俺の些細な変化に気付いてくれたことに喜んでいるところだよ」
「複雑だね」
驚きだ。こんな悩み、生まれて初めてだよ。カワイと一緒にリビングへ戻りながら、俺は心底悩み始める。
服のサイズは、今のところ問題ナシ。着られないなんてことはないし、窮屈だとも思っていない。
日常生活を送る上で、支障も不便さも感じていなかった。カワイに指摘されるまで『太ったかも』なんて、可能性としてすら浮上してこなかったのだ。当然と言えば当然だろう。
でも、もしかして。……これって、ちょっぴり危ないのかも?
もしも、仮に。俺が太って、そのうちそれを理由に……。ここから連想ゲームのように、俺はとある仮定を築いた。
さぁ。【想定される未来】という名の妄想劇場、スタートだ!
『自分のスタイルも維持できないなんて……。ヒト、カッコ悪い』
『ちっ、違うんだよっ! カワイとゼロ太郎が作ってくれるご飯がおいしくて! だからっ、だからっ!』
『自分の怠惰を、ボクとゼロタローのせいにするんだ? ふぅ~ん。……ヒトなんか、嫌い』
「──ぎゃあぁあッ!」
発狂! これは発狂だよ! リビングに着くや否や、俺は頭を抱えて叫び始めた。
当然、俺の妄想劇場の開幕を知らないカワイはビクッと驚いている。尻尾をピンと立て、目をまん丸にしているのだ。可愛い、そんなところも可愛い。
だけど、このままではカワイに嫌われてしまうかもしれない! この妄想に取り憑かれ始めた俺は、ガタガタと体を震わせてしまう。
「うあっ、どうしようっ。カワイ、ゼロ太郎っ、あっ、あぁっ、あっ」
「どうしよう。ヒトの目がグルグルになってる」
[落ち着いてください、主様]
さすがのゼロ太郎も俺の心配をする始末。しかし、パニックを起こすなと言う方が無理な話だ。
カワイに嫌われるなんて、耐えられない。妄想のカワイに『嫌い』と言われただけでこうなるなら、現実で言われたら……。あっ、駄目だ。【顔の肉を物理的に削ぎ落とす】以外の選択肢が思いつかない。
目をグルグルと回す俺に寄り添い、カワイは「大丈夫?」と言いながら水を持って来てくれる。
その優しさを受けて、俺は今現在抱いてしまった不安を、カワイに直接伝えたのだった。
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