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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む──あの日から、なんだかおかしい。
『ヒト。助けてくれて、ありがとう』
カワイと手を繋ぐなんて、初めてじゃなかったのに。
カワイの笑顔だって、珍しいと言えば確かに珍しい。でも、初めて見たわけじゃなかった。
それなのに……。
『──ヒトがいてくれて、良かった』
あの日のカワイが、忘れられなくて。
あの日のカワイを思い出す度に、胸の辺りがモゾモゾッとする。
……いったい、なんなんだろう。この、落ち着かない気持ちは……。
* * *
──なんてことを考えているとは欠片も気付かせずに、カワイと今まで通りの日々を過ごす。それが俺、追着陽斗だ!
というわけで、今日も今日とて俺はカワイとゼロ太郎お手製の晩ご飯に舌鼓を打っていた。
「今日のご飯もおいしかったぁ~っ。カワイもゼロ太郎も、いつも本当にありがとうねぇ~」
手作りの料理が食べられるのって、ゼリー飲料とは幸福度が全く違うなぁ。お腹だけじゃなくて心が満たされるって、こういうことを言うんだろうね。……いや、ゼリー飲料もあれはあれでおいしかったんだけどさ。
仕事終わりに、誰かが作ってくれたご飯を食べられる。いつも思うけど、これって凄まじく素晴らしいことだよね。だって、この幸福を甘受するためには【自分以外の誰か】が必要なんだもん。
「鶏肉と野菜の、五目炒め? って言うのかな? おいしかったから、また作ってほしいなぁ」
「それ、昨日作ったイワシの生姜煮にも言ってたよ」
[一昨日ご用意したそら豆の醤油煮にも言っておりましたね]
「だって全部おいしかったからさぁ~」
きっと今の俺は、表情からも『とても喜んでいる』という感情が駄々漏れだろう。そのくらい、幸福なのだ。
きのこ汁を啜って、俺は心をホッと落ち着かせる。
「あぁ~、染み込むぅ~……。料理を通してカワイの優しさが内臓にまで届いている気がするよ。ありがとう、カワイ。それにゼロ太郎も、いつも的確に俺が欲するものを調べてくれてありがとう」
お椀を両手で持ちながらホッコリしている俺を見て、カワイはコテンと小首を傾げた。
「最近のヒト、少し変わった気がする」
「えっ、そうかな? ちなみに、具体的にはどの辺り?」
「具体的に……。……顔?」
顔か。そうか、顔……。
──……んんっ? 【顔】が?
カワイの指摘を受けて、俺はお椀をテーブルの上に置く。それから俺は、すぐさま脱衣所に向かった。
もしかして、まさか。カワイの一言を理解すると同時に俺は、あるひとつの疑惑を抱いたのだ。
突然脱衣所に向かった俺を、カワイは追いかける。ゼロ太郎も気になるのか、頭上から[マナーが悪いですよ]なんて言って……あっ、別に俺を心配している感じではないのね。了解、了解。
まぁ、それは置いておいて。俺はすぐに、脱衣所に置いてある【ある物】の上に乗った。
もしかして、と。カワイの指摘を受けて俺が抱いた疑惑は、ひとつ。
──まさか俺、太ったのか? その答えが【体重計】に表示された。
「──過去最高の数値、かも」
[そ、そんな……!]
「どうしよう……!」
「──二人共、本人よりショックを受けるのはやめてくれないかな」
追着陽斗、ただの社会人。まだまだピチピチの二十代後半。最近、同居人もとい同居悪魔に思うことがある。
しかしどうやら、俺はこの不可解な心象に悩んでいる場合ではないらしい。
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