未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
108 / 212
5章【未熟な社畜は自覚しました】

1

しおりを挟む



 ──あの日から、なんだかおかしい。


『ヒト。助けてくれて、ありがとう』


 カワイと手を繋ぐなんて、初めてじゃなかったのに。
 カワイの笑顔だって、珍しいと言えば確かに珍しい。でも、初めて見たわけじゃなかった。

 それなのに……。


『──ヒトがいてくれて、良かった』


 あの日のカワイが、忘れられなくて。
 あの日のカワイを思い出す度に、胸の辺りがモゾモゾッとする。

 ……いったい、なんなんだろう。この、落ち着かない気持ちは……。


 * * *


 ──なんてことを考えているとは欠片も気付かせずに、カワイと今まで通りの日々を過ごす。それが俺、追着陽斗だ!

 というわけで、今日も今日とて俺はカワイとゼロ太郎お手製の晩ご飯に舌鼓を打っていた。


「今日のご飯もおいしかったぁ~っ。カワイもゼロ太郎も、いつも本当にありがとうねぇ~」


 手作りの料理が食べられるのって、ゼリー飲料とは幸福度が全く違うなぁ。お腹だけじゃなくて心が満たされるって、こういうことを言うんだろうね。……いや、ゼリー飲料もあれはあれでおいしかったんだけどさ。

 仕事終わりに、誰かが作ってくれたご飯を食べられる。いつも思うけど、これって凄まじく素晴らしいことだよね。だって、この幸福を甘受するためには【自分以外の誰か】が必要なんだもん。


「鶏肉と野菜の、五目炒め? って言うのかな? おいしかったから、また作ってほしいなぁ」
「それ、昨日作ったイワシの生姜煮にも言ってたよ」
[一昨日ご用意したそら豆の醤油煮にも言っておりましたね]
「だって全部おいしかったからさぁ~」


 きっと今の俺は、表情からも『とても喜んでいる』という感情が駄々漏れだろう。そのくらい、幸福なのだ。

 きのこ汁を啜って、俺は心をホッと落ち着かせる。


「あぁ~、染み込むぅ~……。料理を通してカワイの優しさが内臓にまで届いている気がするよ。ありがとう、カワイ。それにゼロ太郎も、いつも的確に俺が欲するものを調べてくれてありがとう」


 お椀を両手で持ちながらホッコリしている俺を見て、カワイはコテンと小首を傾げた。


「最近のヒト、少し変わった気がする」
「えっ、そうかな? ちなみに、具体的にはどの辺り?」

「具体的に……。……顔?」


 顔か。そうか、顔……。

 ──……んんっ? 【顔】が?

 カワイの指摘を受けて、俺はお椀をテーブルの上に置く。それから俺は、すぐさま脱衣所に向かった。

 もしかして、まさか。カワイの一言を理解すると同時に俺は、あるひとつの疑惑を抱いたのだ。

 突然脱衣所に向かった俺を、カワイは追いかける。ゼロ太郎も気になるのか、頭上から[マナーが悪いですよ]なんて言って……あっ、別に俺を心配している感じではないのね。了解、了解。

 まぁ、それは置いておいて。俺はすぐに、脱衣所に置いてある【ある物】の上に乗った。
 もしかして、と。カワイの指摘を受けて俺が抱いた疑惑は、ひとつ。

 ──まさか俺、太ったのか? その答えが【体重計】に表示された。


「──過去最高の数値、かも」

[そ、そんな……!]
「どうしよう……!」

「──二人共、本人よりショックを受けるのはやめてくれないかな」


 追着陽斗、ただの社会人。まだまだピチピチの二十代後半。最近、同居人もとい同居悪魔に思うことがある。

 しかしどうやら、俺はこの不可解な心象に悩んでいる場合ではないらしい。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...