101 / 212
4.5章【未熟な悪魔のパーフェクトな知識です?】
1
しおりを挟む俺こと追着陽斗には最近、悩みがある。
それは同居人──そう。カワイに関する悩みだ。
遡ること、三日前。この日から、俺の悩みの種はスクスクと猛スピードで育ち始めたのだ。
時刻は、俺が会社から帰宅したその晩。……回想、スタート!
俺はいつものようにカワイお手製の晩ご飯を食べようと、それはそれは意気揚々でルンルンでハッピーだった。
「今日のご飯は唐揚げでしょ! それと、お味噌汁! 香ばしさを纏ったいい匂いがする~っ! 食欲全開だねっ、ありがとう~っ!」
「うん。それと、ナスの鍋しぎ」
「ナベシギ……。……なにそれ?」
「ナスを炒めて、味噌で味を付けた料理のことをそう言うらしい」
「……へぇ~?」
さて、お分かりいただけただろうか? ……『さすがにこれじゃあ、まだ分からない』って? ならば、二日前の回想を始めよう。
鍋しぎという料理を堪能した、その次の日。その日もその日とて、俺は帰宅後にカワイが作ってくれた料理を眺めて瞳をキラキラさせていた。
「なにこれ、魚だ! 魚の照り焼きだ! あとは、野菜の胡麻和え? それと、南瓜の煮物だ! おいしそ~っ!」
「カボチャのいとこ煮だよ」
「いとこ、に……?」
「小豆と野菜を煮た料理を、そう呼ぶらしいよ。煮るのに時間がかかるものから『おいおい』入れていくから『甥、甥』ってことで、いとこ」
「わー、博識だなー」
お分かりいただけるだろうか? ……『ヤッパリまだ分からない』って? そうかそうか。ならば、昨晩の回想を始めよう。
いとこ煮に身も心もホッコリした、その翌日──つまり、昨日の話だ。
昨日も昨日で、俺はテーブルに用意された晩ご飯を見て幼い子供のようにはしゃぎまくっていた。
「今日はお鍋なんだね! お肉と青菜と、そして鍋には外せない白菜だ! ひゅうっ、今日のご飯もおいしそうだなぁ~っ!」
「うん。常夜鍋」
「とこよなべ」
「毎晩食べても飽きないから、常夜鍋」
「ナルホドー」
お分かり……あっ、まだ? ちょっとまだ分からないかな?
それじゃあ、とっておきだ。今晩の話をしようじゃないか。
今晩──つまり、今も俺は無邪気な少年だ。カワイの手料理に胃袋を完全掌握されている俺は、食卓テーブルの椅子に座って心をタップダンスばりに躍らせていた。
「玉子焼きと、野菜の和え物と……おぉっ、ぶり大根! 好きなんだよね、ぶり大根! ありがとう、カワイ!」
「うん。ブリは出世魚だから、おめでたい魚なんだって」
「しゅっせうお」
おかわり──失礼。お分かりいただけただろうか?
そう、そうなんだよ……! カワイが、俺のカワイが……!
俺はテーブルを『バンッ!』と叩き、苦悶の表情を浮かべて叫んだ。それはもう、心から叫んでしまった。
「──カワイの人間界でのトンデモ豆知識やら雑学やら知識やらがとんでもないのだがッ!」
お分かってくれ。カワイがどんどん、悪魔らしからぬ雑学を学びまくっているということ
を。
カワイが猛スピードで人間顔向けの知識を保有していっているという、この状況の嘆かわしさを、だ。
23
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる