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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む全然、彼の接近に気付かなかった。ボクは思わず、目を丸くしてしまう。
「なんだよテメェッ! こんなことして許されると思ってるのかッ!」
「それって恐喝罪? それとも、その子の手首に手の痕を残しているから暴行罪になるのかな? まぁ法律に詳しくないし、正直その辺りはなんでもいいけどさ」
「ハァッ? ゴチャゴチャワケの分かんねぇこと言ってんじゃねぇよッ! ぶっ殺すぞクソがッ!」
「はい、いただきましたー。録音バッチリでーす」
……ヒト、だ。ヒトが、助けてくれた。
ボクがなにもできずに立ち尽くしている間にも、ヒトは淡々と変質者の人間を追い詰めていく。捻り上げていた腕をそのままに、ヒトは自分よりも重たそうな男を難なく地面に倒した。
それから、男の写真を撮る。
「どうします? このまま一人で自首するか、俺に連れられて警察に行くか……。選んでいいですよ」
「ヒ、ッ!」
「言っておきますけど、謝っても許しませんから。この子に手を出したんだから、そのくらいの覚悟はあるのでしょう?」
「お、まえ……ッ!」
すると、僅か一瞬の隙をついて……。
「気味の悪い目を向けんじゃねぇよッ! クソがッ!」
変質者はヒトから逃れて、そのまま走り去っていった。
……隙、だったのかな。なんだかボクには、わざと相手を解放したように見えたけど。
「今の人間、逃がしちゃって良かったの? ボク、追いかける?」
「いや、その必要はないよ。仮に必要があったとしても、カワイを行かせるわけない」
ヒトは片手で持ったスマホに、声を掛ける。
「ゼロ太郎。今の男の情報は取得できた?」
[無論です。相手のスマホをハッキングするなんて、私にとっては朝飯ならぬ夕飯前ですよ]
「さすが俺たちのゼロ太郎だ。じゃあ、その情報とあの男の位置情報を警察に渡して」
[承知いたしました]
……えっと、つまり? つまり、どういうことだろう? 逃がす気はない、ってことなのかな。
ゼロタローとのやり取りを素早く終えたヒトは、スマホからボクに視線を移した。ヒトはボクに近付いて、そのまま膝を曲げて目線を合わせてくれる。
「大丈夫、カワイ? 怪我はない?」
いつもは少しだらしなくて、のほほんとした印象なのに……。
「それにしても、言うに事を欠いて『気味の悪い目』だってさ。相手の身体的特徴くらいしか反論要素にできないなんて、小者中の小者だねぇ」
ヒトは、強かった。自分よりも重たそうな男を平然と圧倒して、ボクを助けてくれたんだ。
ヤッパリ、ヤッパリヒトは……。
「──ヒトは変質者じゃないよ」
「──えっ、誰へのなんの弁明っ?」
──すごく、すごく、カッコイイ。
困惑するヒトを見たまま、ボクは小首を傾げる。
「ところで、どうしてヒトはここに? 会社は?」
「今日は早く帰っても大丈夫そうだったからさ、もう退社したんだよ。それで、こっちの方に歩いて行くカワイを見つけたんだ。車で一緒に帰ろうと思って追いかけたら、あんなことになってたからさ」
困ったように笑って、ヒトはボクの手首を撫でた。
「助けるのが遅くなっちゃってごめんね。ここ、痛くない?」
どうしてヒトの方が、痛そうな顔をしているんだろう。……なんて。これは愚問だ。理由なんて【ヒトが優しい人間だから】で足りちゃう。
ボクは頷いて、無事を伝える。それでもヒトは悲しそうな顔をしているから、ボクは手首を撫でるヒトの手を、もう片方の手で握った。
「ヒト。助けてくれて、ありがとう」
それから、あまり上手じゃないけど笑顔を浮かべる。
「──ヒトがいてくれて、良かった」
「──っ」
あれ、どうしたのかな。ヒトが驚いたように目を丸くした気がする。
「あ、たりまえだよ! 俺のカワイは誰にも触らせないよ!」
でもすぐに、ヒトはいつものヒトになった。……気のせい、だったのかな。
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