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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟むゼロタローに恋バナをして、調子が戻ってきた。
あの日の夢を見たから、ボクは少しナイーブになっていたのかも。そう気付けるくらいには【いつも通り】に戻れたボクは、ゼロタローとパソコンを使った仕事をしたり、家事をしたり……。いつもの平日と同じことをした。
それで、今は買い物の時間。ボクは近所のスーパーで買い物かごを片手に、今晩のメニューを考える。
今日は確か、ニンジンが安かったはず。後は、調味料も安売りされていて──。
「うちはカレーにケチャップを入れてるわよ」
反射的に、尻尾がピンと立つ。なんだか有益な情報を手に入れた気がするからだ。
今のは……奥さん同士の会話、かな。行儀は悪いって分かってるけど、これも世のためヒトのため。聞き耳を立てみよう。ボクは声がした相手からは死角になる位置へと移動して、会話を盗み聞きする。
「最近のカレーは『色々混ぜなくてもおいしい』って言うけど、それでもうちは色々混ぜちゃうわねぇ」
「分かるわ~。うちはブランドが違うカレールーを混ぜちゃうもの」
……なるほど。カレーは色々混ぜると、もっとおいしくなるんだ。
隠し味に醤油とか、ソースとか、チョコレートを入れるっていうのもゼロタローが言っていたっけ。どれも、初心者のボクが試すにはリスクが大きいかと思って避けてきたけど。
でも、いつもと違う作り方をしたら? ……ヒトも、喜んでくれるのかな?
ということで、想像。ボクが作ったカレーを食べて、ヒトならどんな反応をしてくれるかな……。
『なにこのカレー、メチャクチャおいしい! さすが俺のカワイだっ! 天才天使! 大好きだよっ!』
……よし、実践しよう。これは名付けて【下心カレー】だ。
すぐにスマホを片手に持ち、耳に当てる。誰かと電話をしているという表現をしながら、ゼロタローと会話をするために。
「──ゼロタロー。今日の晩ご飯は下心カレーにするね」
[──なんですかその酷いネーミングのカレーは]
酷くないもん、ヒトならそう付けるもん。
かくかくしかじかで説明した後、ゼロタローは納得の上で快諾。ボクは必要な材料を買い物かごに入れて、レジに向かった。
そこで、見覚えのある人間を発見する。
「あっ、カワイさんじゃないっすか~。いらっしゃいませ、こんにちは~」
「うん。こんにちは」
エツだ。今日はここで仕事みたい。
「いつもご利用ありがとーございまーっす。今日のお夕飯はなんすかね~?」
「カレー。あと、カボチャのスープも作りたい。サラダはマスト」
「わ~っ、おいしそうっすね~」
レジをピッピッてしながら、エツはボクと話をする。会話で気が散っているはずなのに、動きが淀みない。プロのレジ打ちさんだ。すごくすごい。
エツの調子は良さそうだから、ボクも会話を続行する。
「ねぇ、エツ。ボク、せいろが欲しい」
「せいろ? ……って、中華まんとか作るアレっすか?」
「うん、そう。ヒトがこの前、コンビニであんまんを買ってくれたんだ。それがおいしかったから、自分で作りたい」
「ポテンシャルたっか~」
褒められた、と思おう。電子マネー決済ってものをしながら、ボクはポジティブにそう捉える。
「じゃあ、ジブンがバイトしてるホームセンターに置いてくれないか、店長に提案してみるっすよ~」
「ホント? エツ、いい人間。出世間違いナシ」
「まじっすか~? ざっす~」
ざっす、ってなんだろう? 後でゼロタローに教えてもらおう。
エツのおかげで、またひとつ作れるものが増えそうだ。ボクはワクワクしながら、エツにお礼を言って会計を済ませた。
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