94 / 212
4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
19
しおりを挟むゼロタローに心配をさせたままなのは、きっと良くない。ボクはヨキンザンダカを元の場所に戻してから、いつもヒトと一緒に寝ているベッドに座った。
「ねぇ。ゼロタローにとって、ヒトってどんな人間?」
[それは勿論、一言で形容するのなら【ヘンタイ】で充分な──]
ジッと、上を向く。真っ直ぐと、ゼロタローを見つめるために。
ボクの目を見ているはずのゼロタローは、なにかを思ったらしい。途中まで音にしていた答えの続きを言わず、間を作った。
それから、ポンと。ゼロタローは、どこか静かな音で答える。
[……【超】という単語だけでは足りないくらいのお人好し、ですね。自己犠牲精神の塊です]
ボクにとって、納得できそうで。どこか理解できない、そんな答えを。
咄嗟に相槌も返事もできなかったボクを見て、ゼロタローは『補足説明をしなくては』と思ったのかもしれない。
[簡単に説明いたしますと、例えば『主様と、主様が全く知らない他人。どちらか一人が死ねば、もう一人は生き残れます。そして、どちらが死ぬかの選択権はあなたにあります』と言われたら、主様は迷いなく『なら俺を殺してくれ』と言います]
「相手は、ヒトが知らない人間なのに?」
[えぇ、そうです。主様は、そういう男なのですよ]
それでもヤッパリ、ボクには理解ができなかった。
確かにヒトなら、そうするかもしれない。そんな【納得】はあるけど、大前提の部分でそんなことをする意味が【理解】できなかった。
[正確には【自己犠牲】ではないのですが、それは追々カワイ君も理解できる話なので、今は話しません]
「分かった。ヒトとのナイショ話みたいだから、ボクも深くは訊かない」
でも、ゼロタローにとってヒトがどんな相手なのかは分かった気がする。だからボクは続けて、他の質問を投げた。
「ゼロタローは、ヒトのこと……好き?」
[私には【感情】などというものはありません。私は、人工知能ですから]
時々、ゼロタローは意地悪な気がする。ボクは思わず、ムッとしてしまった。
だけど、ゼロタローは人工知能だから。ゼロタローが出せる答えは、意地悪なものにしかならないのかもしれない。
[膨大なデータを元に、主様が望んだ関係性と立ち位置、そしてキャラクター設定に則って発言をしております。最も適切な言葉を選択し、返答する。それが私たち、人工知能です]
「じゃあゼロタローは、ヒトのことが嫌い?」
[ですから、私には【感情】が──]
でも、ゼロタローは賢いから。
「ボクは【人工知能】じゃなくて【ゼロタロー】に訊いてるよ」
[……]
ボクが言いたいことを、理解できる。
[……はぁ、まったく。カワイ君は、妙なところが主様に似てまいりましたね]
だからゼロタローは、わざとらしくため息を吐いた。人工知能には必要のない、ため息を。
すぐにゼロタローは、どこか不服そうな声音で答えてくれた。
[好ましく思っていますよ。そういう関係性と振る舞いを望まれていますから、私にはそうとしか答えられません]
ボクは「そっか」と相槌を打って、ゼロタローを見つめる。
「ボクたち、幸せ者だね」
[本当に、発想の斜め上加減が主様そっくりですね]
「そう? だったら、嬉しいな」
[そういうところです]
ゼロタローにとって、ヒトは大切な相手。
だったら、話してもいいのかもしれない。ゼロタローには、知っていてほしいから。
「あのね、ゼロタロー。これからボクがする話は、誰にも言わないでね。ヒトにも言っちゃダメな、大事でヒミツの話だから」
ゼロタローにとってヒトが大切な存在なら、知っておくべきなんだと思う。
「──ボク、ホントはヒトのことを知ってたんだ。ボクは、ヒトに会いたくて人間界に来たんだよ」
ボクが、どういう悪魔なのかを。
23
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる