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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む──その夜、ボクは夢を見た。
『外は寒いでしょう? 君さえ良かったら、こっちにおいで。俺と一緒に帰ろう?』
手を差し伸べてくれた、人間の姿の夢。……ううん、違う。これは【夢】と言う名の、ボクの過去を回想した、記憶の反芻。
その時のボクは汚れていて、ボロボロで、関わるのはおろか触るのだって抵抗があったに違いない。それくらい、汚い姿だったと思う。
それなのに、彼は手を差し伸べてくれた。震えるボクを、抱き上げてくれたんだ。
『あらら、体が冷えきっちゃってるね。冷たいや』
雪が降る、とある日の夜。彼は苦笑しながら、汚れたボクを抱き上げて、彼の体温を優しく分けてくれた。
どうしてこんなボクに、そんなに優しくしてくれるの? そう思いながら、ボクは彼を見上げた。
言葉に出せなかった問いを、まるで察してくれたかのように。彼は笑顔のまま、優しい声音で答えてくれた。
『ひとりぼっちは寂しいからさ。君さえ良ければ、俺と一緒にいてくれないかな? ……なんちゃって』
まるで、自分のためかのように。あくまでもこれは自分の利益だと言わんばかりの言葉で、彼はボクを抱いて部屋まで運んでくれた。
ボクのためじゃなくて、自分のため。だからボクは、なにも気にしなくていい。彼がボクに思わせたかったのは、そういうことなんだと思う。
『君が食べられるようなもの、部屋にあったかな。ゼリー……は、さすがに駄目だよね? うーん、なにかあったかなぁ?』
とても、優しい人間。まるで、まるで……。彼への気持ちが、その時のボクにはうまくまとめられなかった。
ボクはそっと、彼の服に爪を立てる。そんなボクを見て、彼は慈愛を込めているかのように柔らかく、笑ってくれた。
分からなかった、彼への気持ち。だけどボクは、気付いたんだ。彼への気持ちが──あの時の感謝が、どんな感情に繋がっていたのかって。
ボクを拾ってくれた、彼──ヒトのそばを離れてから。ボクは、ヒトへの気持ちに名前を付けられたんだ。
* * *
目が覚めて、ボクは普段通りの作業を始めた。
朝食を用意して、お弁当を用意して、ちょっとした家事をちょちょいっと済ませて……。駄々をこねるヒトをいつもみたいに見送って、また家事を再開して、それで……。
[──カワイ君、なにかありましたか?]
ゼロタローが突然、そんなことを口にした。
洗濯物を畳みながら、ボクは上を向く。ゼロタローに実体はないけど、声は上から聞こえる。だからボクもヒトも、ゼロタローを見るときは上を向く。
「どうして? ボク、なにか変?」
[元気が無いようにお見受けいたします]
ゼロタローからの指摘に、思わずドキッとしてしまう。
別に、元気が無いわけじゃなかった。ただボクは、思い出しただけだから。ヒトと【初めて会ったあの日】のことを。
それでボクは、思い出しただけなんだよ。
ボクは、ボクは。……ボクはヒトに、ずっと──。
[カワイ君。寝室に向かっていただけますか?]
「寝室? うん、いいよ」
ハッとしたボクは、ゼロタローに指示された通り寝室へと向かう。
寝室に入ると、そこからもまたゼロタローがボクを言葉で動かす。ボクは言われるがまま動いて、ひとつの引き出しを引いて中身を見た。
どうやらゼロタローは、これをボクに見せたかったみたい。……だけど、これって?
「なに、これ?」
[──主様の預金残高です。見ていると、心が落ち着きませんか?]
「──うん、あんまり」
ゼロタローの慰め方って、独特なんだね。言葉にはしなかったけど、ボクは心の底からそう思ってしまった。
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