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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】

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 ボクの煩悩なんて、露知らず。お風呂でサッパリしたヒトは、上機嫌な様子でリビングに戻ってきた。


「お風呂に入ったら、もう一本だけビールが飲みたくなってきたなぁ。なにかおつまみ、おつまみは……っと」


 タオルで頭を拭きながら、ヒトは冷蔵庫を開ける。

 ヒトがいつも通りなんだから、ボクもいつも通りに戻らなくちゃ。見つからないように、自分のほっぺをペチペチ叩いて……。よし。もう大丈夫。

 気持ちの切り替えを果たしたボクにも気付かないまま、ヒトは冷蔵庫の中からビールを取り出した。

 だけど、ヒトの気を引いたのはビールだけじゃなかったみたい。


「おぉっ? 冷蔵庫の中においしそうなものを発見!」


 おつまみに適した料理を見つけたのかな。なんだろう? パプリカのきんぴら、かな。それとも、ミートボールかも。


「カワイ、これ! パプリカっぽいなにかとミートボール! 食べたいなぁ、食べたいなぁ~っ」


 あ、両方だった。ヒトの食欲に刺さったなら、なんでも嬉しいけど。
 ……でも。


「それは、どっちもダメ。明日のお弁当用だから」
「えぇ~っ?」


 ヒトが見つけた料理は、どっちも食べさせてあげられない。明日のヒトのために作ったんだもん。

 だけど、ヒトは引かない。


「……駄目?」
「ダメ」
「どうしても?」
「どうしても」

「そっかぁ。……カワイ、駄目?」
「……。……少しだけなら、いいよ」


 うぅ。ヒトにおねだりされたら断れないよ。ボクは冷蔵庫の中から料理を取り出して、別のお皿に少しずつ盛り付けた。

 ヒトはボクの葛藤を知らないから、後ろで無邪気に「ヤッタ! カワイ、大好き~っ!」って言ってる。そう言われちゃうと、ボクは『明日のボクが頑張ればいいよね』って気持ちになっちゃうよ。

 ヒトはズルい。ただオカズをあげるだけで『大好き』って言ってもらえるなら、ボクが『いくらでもあげたくなっちゃう』って思っちゃうってことを知らないんだから。

 ボクのほっぺを熱くした張本人のヒトは、そんな自覚もナシに晩酌の準備を進めている。


「ビールと、カワイお手製のおつまみ。仕事終わりはこれだから最高なんだよねぇ~っっ」


 そう言われたら、ボクにとってもサイコーになっちゃうから不思議。温め直した料理をヒトに持って行くと、笑顔が向けられた。


「ありがとうっ。カワイも一緒に食べる?」
「ううん、ボクはいい。でも、隣に座っていい?」
「勿論っ! どうぞどうぞ~っ」


 ヒトは椅子を引いて、ボクを座らせてくれる。すぐにボクはヒトの隣に座って、嬉しそうに晩酌を始めるヒトを見つめた。


「なぁに、カワイ? そんなに見つめられると穴が開いちゃうよ?」
「視線だけで穴が開くなんて、人間は脆弱だね」
「あっ、そう捉えちゃうのかぁ~」


 今の言葉は冗談、だったのかな。人間界の冗談はバリエーションに富んでいて難しい。
 でも冗談だったなら、ヒトを見つめていても穴は開かないってことだよね。見つめちゃおう。

 ジーッと見つめていると、ヒトの口元がもにょもにょしてきた。どうしたのかな、歯になにか詰まったのかな。

 ヒトの口がもにょもにょし始めた理由はあまり気にせず、ボクはヒトを見つめ続けた。




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