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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む買い物をした後は、ヒトが帰ってくる時間に合わせて料理を始める。
ゼロタローが決めてくれたメニューの通り、肉じゃがを作り始めて……。それ以外にも、食べる物を作る。
家事で一番好きなのは洗濯だけど、料理を作るのも好き。ボクがどの家事をしてもヒトは喜んでくれるけど、その中でも一番ヒトが笑顔になってくれる家事が【料理】な気がするから。
それに、料理をしている時はいつも楽しい。朝だったら、ヒトが起きてくるから。夜だったらヒトが帰ってくるから、嬉しい。
そんな気持ちが、顔に出ていたのかも。
[カワイ君は、いつも楽しそうに料理をしますね]
「ボク、ニヤニヤしてた?」
[尻尾が揺れています]
「あうっ」
顔じゃなくて、尻尾だった。素直な尻尾が、時々恥ずかしい。
「えっと……うん、楽しい。ゼロタローが教えてくれるから会話が増えるし、ヒトが喜んでくれるかなって考えると、楽しい」
[サラッと私を口説かないでください。お応えいたしかねます]
「ボクが好きなのはヒトだよ?」
[サラッと振らないでください]
ゼロタローは時々、分からないことを言う。
でも、ゼロタローが言うことをヒトは理解している。それに、ヒトが言うことをゼロタローはいつも理解していた。ボクがもっと人間界に馴染んだら、二人の言っている意味が全部分かるようになるのかな。
「もっと頑張らなくちゃ」
[おそらくですが、不要な決意だと思いますよ]
なんて雑談も交わしながら、ボクはゼロタローと料理をする。
ボクの一番はヒトだけど、ゼロタローのことも好きだからゼロタローと喋るのは楽しい。
「ボク、人間界に来て本当に良かった。魔界も楽しいことはあったけど、こっちの方がもっと楽しい」
[己の悦楽を最優先とする悪魔が住む世界。魔界はきっと、奇想天外で奇天烈な場所なのでしょうね]
「うん、魔界は面白いところだよ」
[その世界と比べた上で私たちとの生活を楽しんでくださっているのでしたら、少々複雑な気持ちもありますが嬉しいですね]
複雑な、気持ち? ゼロタローは謙虚ってことかな。
そうやってゼロタローとコミュニケーションを取りながら、料理は完成。ボクは人間が食べる料理の実物を見たことがないけど、ゼロタローもヒトもなにも言わないから、たぶん合ってるはず。
味見をしても、合っているかは分からない。ゼロタローには口がないから、調理工程を教わっても味見はしてもらえないのが、いつも少しだけ不安。
「ヒト、喜んでくれるかな」
[主様はカワイ君が埃を盛り付けた皿を出しても喜びますよ]
「それが事実だとしたら、張り合いがないね」
[まったくですね]
……えっ、今のは冗談じゃないの? 事実として話が進んじゃった。
ま、まぁいいや。後は料理をお皿に盛りつけて、ヒトが帰ってくるのを待てば──……と思っていたら。
玄関扉の鍵が、開錠する音。ボクは作業の手をすぐに止めて、玄関に向かう。
すると、ヤッパリ……。
「カワイ~、ゼロ太郎~、ただいま~」
ヒトが帰ってきた。
家事をするのも、ヒトのことを待つのも好き。だけどヤッパリ一番は、ヒトに会えるこの時間が大好きだな。
仕事で疲れたのか、エツみたいに語尾を伸ばすヒトを見て、ボクは思わず瞳を細めてしまった。
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