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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む悪魔は、人間みたいに三食しっかり食べなきゃ体に不調をきたすような生き物じゃない。
だけど、ヒトと一緒に暮らすなら生活習慣はヒトに合わせたい。そう思っているボクは、お昼になったらしっかりご飯を食べる。
だけど、悪魔だから食事の内容なんてどうでもいい。つまり、ボクのご飯はなんでもいいから……。キッチンに移動してから冷蔵庫の中を確認して、ボクはお昼ご飯を用意し始める。
ご飯の上にチーズとバターを乗せて、それから刻んだ海苔をパラパラッてかけて、最後に醤油をたらーっとかけて……。
[相変わらず、カワイ君は主様が関係していないと料理が雑ですね]
「ヒトにはナイショだよ」
[無論です。お伝えしても私にメリットはありませんからね]
これはこれでおいしいけど、ヒトには作ってあげない。悪魔のボクには関係ないけど、人間のヒトには良くないご飯だって自覚はあるから。
ご飯を食べた後は、部屋の掃除。トイレとお風呂場もしっかり掃除して、ヒトにとってリラックスできる空間づくりを欠かさない。
そんなこんなで夕方よりも少し前になると、ボクは買い物の準備を始める。お買い得品以外は必要な物を必要な分しか買わないから、ボクはほぼ毎日スーパーに通うようになっていた。
[本日の特売品です]
買い物の準備を始めると、ゼロタローはスーパーのチラシを壁に映し出してくれる。ボクは壁に写ったお買い得品をジーッと見つめて、考え込む。
「今日の晩ご飯、ヒトはなにがいいかな」
[朝はパンでしたので、夜は和食にしましょうか。じゃがいもと豚肉がお安いので、肉じゃがにしましょう]
「うん、分かった」
ゼロタローに実体があったら、すごくすごい主婦になっていたかも。
……いや、主夫かな? ゼロタローの性別って、声の通り男の子って認識でいいのか分からないや。
でも、どっちでもいい。ゼロタローはゼロタローだから。
晩ご飯のメニューを決めて、買う物もしっかり記憶する。ヒトが用意してくれたスマホを持って、ボクはスーパーに向かった。
部屋から出て、エレベーターに近付くと……。見覚えのある人間が、ボクと同じようにエレベーターを待っていた。
ボクが相手を認識したとほぼ同時に、相手もボクを認識したみたい。その人間はボクを見て、口角をゆるりと上げた。
「あれ~? 最近スーパーでよく見る悪魔さんだ~」
ヒトより目が細くて、たぶん【糸目】ってやつ。
ヒトより、背は低め。ヒトより声は高くて、ヒトより体がペラペラ。それで、ヒトと違って髪の色はグレーで、少し長めで、ヒトより特徴的なのが前髪。切り揃ってなくて、長さがバラバラ。
ヒトがだらっとしてる時と似て、語尾が伸びてる。……それが、この人間の特徴。
[全て主様を前提に記憶していませんか?]
「ボクの全てはヒトが中心だから」
[……そうですか]
ゼロタローと小声で会話をした後、ボクはニコニコしている人間に近付いた。
「キミは、スーパーによくいる人間だよね」
「糸場エツって言うっすよ。よろしくっす~」
「エツ。覚えた。ボクはカワイ」
「カワイさんって言うんすね。どうもどうも」
人間──エツもボクと同じく、エレベーターで下の階に降りようとしていたらしい。ボクたちは揃って、同じエレベーターに乗り込んだ。
「カワイさんは、これからどちらに? スーパーでお買い物っすか~?」
「うん。エツは今日も、スーパーで仕事?」
「今日はホームセンターのアルバイトっす。ジブン、バイトをいくつも掛け持ちしてるんで~」
「ふーん」
確か、こういう人間のことを『フリーター』って言うはず。つまりエツは、フリーター。……うん、覚えた。
ご近所付き合いも、人間界では重要な要素。ここで会ったということは、十中八九エツもこのマンションで暮らしているはず。だから、エツとの付き合いは大事。
ボクはジッとエツの顔を見て、風貌を完全に記憶した。
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