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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む朝ご飯を食べ終わって、ヒトは仕事着──スーツって衣装に着替える。
……さて、と。ボクにとってここからが、一日で一番の大仕事。
「着替えておいてなんだけど、ヤッパリ仕事には行きたくないんだよね。どうしたらいいと思う?」
駄々をこねるヒトを、どうにか出勤させる。これが、ボクとゼロタローにとって最も大変なお仕事。
本音を言えば、ボクは仕事になんて行ってほしくない。ずっと部屋にいてほしいし、ずっと目に見えるところにいてほしい。ヒトを見送るなんて、ボクもしたくない。
でも、ゼロタローはヒトを仕事に行かせたいみたい。この部屋の一番の権力者はゼロタローだから、これに関してボクは従うしかない。
先住民は大事にしないと、大変なことになる。どこだって、そういうもの。それに、ボクは好戦的タイプの悪魔と違って、争いは楽しくないから好きじゃない。
ということで、ここからが大仕事。
「ヒト、行ってらっしゃい」
「うーん。カワイに『行ってらっしゃい』ってお見送りされるのは嬉しいけど、仕事に行くのは嫌だなぁ」
「でも、ヒトが仕事に行かないとボクはヒトに『行ってらっしゃい』って言えないよ」
「そうなんだよねぇ。そこが問題なんだよぉ」
あれ? ヒトが、おかしな方向に話題を持って行き始めているような……。
「プチトマトは好き。だけど、色が赤じゃなくて黄色ってなると話が変わる。……この違いを説明しろ、みたいなことじゃん?」
[全く理解できません。例え話が下手すぎませんか?]
「ヒト、トマト嫌いなの?」
「ううん。俺に嫌いな食べ物はないよ」
[なおさらなんだったのですか、今の例えは]
どうしよう。このままだと、ヒトの気持ちを全肯定したいボクが負けちゃうかもしれない。
「そうだ! カワイは前にスーツ姿の俺を褒めてくれたし、今日はこの恰好でケーキを買いに行こう! カワイ、俺とデートしよう!」
「でも、仕事は?」
「ふふふっ。社会人には【有給休暇】っていう素敵で無敵な隠し技があるのさ。だから問題ないよ~っ」
「有給休暇……」
確かに、そうかも。……でも、それでヒトを仕事に行かせなかったらゼロタローがすっごく怒るのは明白。ボクは顎に指を当てて、考える。
ボクも、ヒトに『行ってらっしゃい』って言うのは好き。一緒の空間にいるからこそ言える言葉だから、その言葉は好き。
でも……。
「──ボクは、ヒトに『おかえりなさい』って言うのも好きだよ? ヒトとデートはしたいけど、それだと今日は『おかえりなさい』って言えなくなっちゃう……」
ボクが呟いた、その瞬間。
「じゃっ、会社に行ってきます。帰りにケーキ買ってくるから、カワイはとびきりの可愛さで俺に『おかえり』って言ってね」
敬礼をしてから、ヒトは目にも留まらぬ速さで玄関から出て行った。
……結果、オーライ? なのかな。
[素早く出勤したからといって、素早く退勤できるわけではないのですけどね]
「あんなに急がれると、ヒトが交通事故を起こさないか心配」
[分かりました。主様のことは、私がきちんとナビゲートいたします]
「うん。よろしくね、ゼロタロー」
なにはともあれ、ヒトを出勤させることには成功したみたい。良かった良かった。
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