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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む朝ご飯を食べながら、ヒトはぼんやりとテレビを見ている。
咀嚼をして、朝ご飯のトーストを呑み込んだ後。まるでそういうロボットかのように「カワイが焼いたパンおいしい」って、何度も言ってくれている。パンの作り方、ゼロタローに教わって良かった。
ボクがゼロタローに教わって作った料理を、ヒトはいつも褒めてくれる。だからボクは、どんどん料理に凝り始めていた。
そうやってボクがいっぱい色々な料理を作れるようになると、ヒトが喜んでくれるから。それがボクにとって、一番のモチベーション。
「まさか、お店じゃなくて自宅で焼いたパンが食べられる日が来るなんてなぁ。人生、なにが起こるか分かんないものだねぇ」
ヒトは時々、とても大規模な言葉を遣うけど。それもイヤじゃなくて嬉しいから、ボクは勉強をやめられない。
「ちなみに、そのジャムもボクのお手製」
「そうなのっ? もうカワイに作れないものなんてないんじゃないっ?」
「ある。ヒトとの子供は作れない」
「んぐッ。カワイも、そういう冗談言うんだね。ビックリしちゃった」
冗談じゃないもん、本気だもん。
ヒトはパンを完食してから、サラダも全部食べてくれた。いつもヒトは料理を完食してくれるから、それも嬉しい。
それに、なにより……。
「ご馳走様、カワイ。今日の料理もとってもおいしかったよ」
ヒトが、笑ってくれるから。ヒトの笑顔が見られるなら、ボクはなんだってしたくなる。
「ゼロ太郎も、いつもありがとう。本当にいつもおいしいよ」
ヒトはボクだけじゃなくて、ゼロタローへの感謝も忘れない。
機械相手なのに、とか。最初はそんなことを思った。
だけど、ヒトにとってゼロタローは【機械】じゃない。ヒトにとって、ゼロタローは【家族】だ。
悪魔のボクも、機械のゼロタローも。ヒトにとっては等しく、家族。ボクはこの扱いが、結構好き。
[なによりです。もしも『こういったジャンルの料理が食べたい』といったリクエストがありましたら、遠慮なく申し付けてください]
「えっ、ゼロ太郎が優しいっ。どっ、どうしたのっ? ウイルス感染?」
[すみません、よく聞こえませんでした。もう一度【言えるものなら】言ってみてくださいませんか?]
「ごめんなさい、すみません。いつも優しいゼロ太郎が大好きです」
……むっ。
「ヒト、ボクは? ボクも、好き?」
「勿論! 大好きだよっ、カワイ~っ!」
ゼロタローとヒトが仲良しなのは嬉しいけど、ヒトがボク以外に『好き』って言うのは嬉しくない。だから思わず、対抗しちゃった。
だけどヒトは、優しい。ニコーッと笑いながら、ヒトはボクにも『好き』と言ってくれた。……うん、満足。
ニコニコしているヒトも見られたから、ボクは上機嫌。この気持ちを維持したまま、今日も一日家事を頑張ろう。
……家事、と言えば。ボクはふと、あることを思い出してしまった。
「ところで、ヒト」
「うん? なぁに、カワイ? 心配しなくても、カワイは今日も可愛いよ?」
……もう。ほっぺがホカホカしちゃうから、いきなりそういうことを言わないでほしい。……イヤじゃ、ないけど。
って、危ない。本題を忘れちゃうところだった。ボクは尻尾の揺れを止められないまま、だけど真剣な顔でヒトを見つめる。
「昨日の洗濯物、ポケットの中にティッシュが入ってたよ」
「えっ、本当に?」
「ホント。洗濯、大変だった。次は気を付けてね?」
「わぁあっ、ごめん! それと、いつも洗濯ありがとう~っ!」
ガタッと勢いよくイスから立ち上がって、ヒトはボクに近付いてからムギュッと強い抱擁をしてくれた。ちょっと苦しいけど、イヤじゃない。
ボクの心臓がドキドキしていることに気付かないまま、ヒトは必死にボクの機嫌を取ろうとした。
「お詫びに、今日は帰りになにか買ってくるね! なにがいい?」
毎日スーパーで買い物してるから、別になにも要らないのに。そもそも怒ってないし、次から気を付けてくれたらそれでいいけど……。
「……ケーキが食べたい。クリームたっぷりの、甘くておいしいケーキ」
「分かった、ケーキだね! とびきりおいしそうなケーキを買ってくるよ!」
ヒトがボクのためになにかをしてくれるなら、それは嬉しいから。
ヒトの思考を少しの間だけでも独占できるなら、と。悪魔なボクはヒトの提案に全力で乗っかった。
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