未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
71 / 212
3.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔のお花見です】

5

しおりを挟む



 お弁当を堪能しつつ、俺はふと顔を上げた。

 視界に広がる、桜の花。黙って顔を上げる俺につられるかのように、カワイも顔を上げたらしい。


「サクラ、キレイだね」
「そうだねぇ。思えば、こうしてゆっくり桜の花を見たのは初めてだよ」
「人間にとって、サクラは珍しくない? 興味、引かれない?」
「いやぁ、そういうわけじゃないんだけどねぇ……」


 カップに注がれたお茶を飲みながら、俺はもう一度、顔を上げる。


「気にも留めてなかった、かな。情報として【桜が咲いている】とは認識していたけど、だからって俺の日々の行動が変わることはなかったね」


 答えてから、俺はカワイに目を向けた。


「だから、カワイが興味を持ってくれて良かったよ。そうじゃなきゃ、俺はこんなに楽しい時間を知らずに、これからの日々を過ごすところだった」
「ヒトはオハナミ、楽しい?」
「うん、楽しいよ。……カワイはどうかな? 俺と同じ気持ちだったら嬉しいんだけどなぁ」


 笑みを向けると、カワイが桜から俺に視線を向ける。
 真っ直ぐに俺を見つめながら、カワイはほんの少しだけ瞳を細めた。


「ヒト。オハナミって、楽しいね」
「本当? 良かったぁ~。俺とカワイは同じ気持ちなんだねっ。嬉しいなぁ」
「うん、同じ。ボクも、ヒトと同じは嬉しい」


 笑い合うと、そのタイミングで風が吹く。
 春らしい温かい風だ。俺はコップをレジャーシートの上に置いた後、箸に手を伸ばした。


「外でご飯を食べるのって、新鮮だよね。解放感って言うのかな? 清々しい気持ちになる」
「うん、新鮮。天気がいいから、気持ちいい」
「まぁ俺は、カワイが一緒ならなんだって楽しいんだけどさ。カワイが一緒なら、どこでご飯を食べても楽しい気持ちになっちゃうなぁ~」
「えっ? ……う、うん。ボクも、ヒトと一緒なら大雨でも大雪でも、槍が降っていても楽しい。楽しい気持ちでご飯、食べられる」

「それは、ご飯どころの話じゃないかな……」


 喜ぶべき例え話なんだろうけどさ。カワイは時々、突飛なことを真剣に言うから驚いちゃうな。


「お弁当、おいしい?」
「あっ、うんっ。とっても。今日のメニューもゼロ太郎が選んでくれたの?」
「うん。ゼロタローは優秀で有能」


 なんだか、ゼロ太郎を褒められると自分のことのように嬉しいぞ。

 ここはきちんと、ゼロ太郎にもお礼を伝えなくては。スマホスタンドに立てかけたスマホに体を向けて、俺はニコリと笑みを浮かべる。


「ゼロ太郎が見つけてくれたお弁当のレシピ、今日も最高だよ。いつもありがとう、ゼロ太郎」


 ……。……シーン。
 あっ、あれっ? 返事がないぞっ?


「おーい? ゼロ太郎、お~いっ?」


 呼んでも、やはり返事はない。……もしかして、照れ隠しか?

 反応が無いことに若干焦りと照れくささを抱いていると、三角のおにぎりを両手で持ったカワイが、小首を傾げた。


「たぶん、ヒトが買ってくれた電子書籍を読んでるから、ゼロタローは本の世界に夢中。ヒトの声は聞こえてないと思う」
「充実してるなぁ~」


 まぁ、楽しんでくれているならなんでもいいけどさ。

 全然『お礼を伝えたのに聞こえてないとか、恥ずかしいんだけど!』なんて思ってないんだからね! 本当だよっ!


[──脳内ツンデレは鬱陶しいですよ、主様]
「──ヤッパリ純然たる無視じゃん!」


 まぁ、うん。……楽しんでくれているなら、それでいいや。ゼロ太郎のツンツン塩対応に嫌な慣れを感じながら、俺は料理に箸を伸ばすのだった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...