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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟む星空の下、俺たちは夜ご飯に舌鼓を打つ。勿論、俺のスマホを立てかけてゼロ太郎にも同じ景色を見せながら。
「それにしても、カワイもすっかりスマホをマスターしたねぇ」
「うん、ゼロタローのおかげ。ヒトにメッセージは送れるようになった」
話題は、カワイからのメッセージだ。お酒を飲みながら枝豆をつまんでいると、必然的に思い出したから。
カワイが飲んでいるのは、オレンジジュースだろうか。しかも、炭酸。カワイは炭酸のシュワシュワに驚きつつ「甘くておいしい」と言っている。……定期配送、しようかな。
「でもまだ、スマホで通話はしたことない」
ぽそっと呟いたカワイは、カワイ用のスマホを取り出した。
「……ん? カワイ? スマホと俺を交互に見て、どうかした?」
「──ヒト。今からヒトに、電話をかけてもいい?」
「──いいけど、この状況だと電話する必要あるかな」
カワイは「確かに、肉声の方が嬉しい」と言い、スマホをしまい込んだ。……くっ、サラッと可愛いことを言ってくれるではないか。嬉しくてお酒が進んじゃなぁ、もうもうっ!
「あのね、ヒト。ひとつ、訊いてもいい? スマホとか電話じゃなくて、別のこと」
おっと。カワイを肴にお酒を飲んでいたら、これまた可愛らしい話題ではないか。
「うん、いいよ。なんでもどうぞ」
拒否する理由なんて、無し。俺はお酒を飲みながら、カワイに向けて頷く。
するとカワイは、指先だけ色の違う手をモゾモゾと動かし始めた。
「ヒトは、その。……番候補って、いる?」
「つがいこうほ……」
恋人って意味、だよね。悪魔の言い方だと【番】になるのか。覚えておこう。
……さて、どこまで正直に答えていいものか。あまり馬鹿正直に答えて、カワイに身の危険を感じさせるのは嫌だなぁ……。
……よし。ここは、ちょっとだけ誤魔化そう。
「俺の恋愛観はゲームの──」
言ってから、俺は気付いた。
──カワイが、やけに真っ直ぐな目を俺に向けている、と。
……嗚呼、そっか。そう、だよね。誤魔化すのは、良くないか。
気恥ずかしそうに動く手だけじゃ気付けなかったけど、カワイはこの話題に真剣なんだね。
理由は、分からない。カワイは俺に恋人がいるかどうかを知って、どうしたいのだろう。
分からない、けど。
「──俺ね、女の子は恋愛対象じゃないんだ」
カワイが真剣だから、俺も相応の態度を返そう。誤魔化すのはやめて、俺は素直な気持ちを答えた。……まったく、カワイには敵わないなぁ。
「色々あって、女の子──って言うか、子供は作りたくなくてさ。それで『女の子とは結婚するべきじゃないな』って思うようになって、それからまた色々あって、なんだかんだと恋愛対象は男の子になったんだ」
「うん」
「色々とね、拗らせちゃったんだよ。『可能であれば弟属性持ちがいいなぁ』とか、妙なこだわりまで持っちゃってさ。あと、美少年。……勿論、これはただの理想だけどね」
「そうなんだ」
ちょっと、驚いちゃった。俺としては真面目な返事だけど、カワイからすると控えめに言っても引かれると思ったのに。
カワイは、いつもと同じように俺の話を聴いてくれている。引いている様子なんてないし、むしろ、とても真剣にさえ見えた。
そんなカワイを見ていると、なんだか嬉しくなったから──。
「──分かり易く答えると、俺はカワイみたいな子が好きなんだよ」
俺は思わず、カワイの頬に手を伸ばして。
そんなことを、言ってしまった。
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