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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むということで、帰ってまいりました我が家。……マンションの借り部屋だけど。
「ただいまぁ~。二人共ぉ~、おーいっ。言われた通り、俺の好きなお酒買ってきたよ~?」
「おかえり、ヒト」
[おかえりなさい、主様]
ふむ。二人共、いつも通りっぽいな。ならば、このお酒はいったいなんのために?
トテトテと小走り気味に近付くカワイは、俺の腕をグイグイと引っ張る。
「ヒト、帰ってきていきなりでごめん。……こっちに来て、味見してほしい」
「いいよ、なになに?」
おぉっ! ポテトサラダじゃないか! 小皿に分けられたポテトサラダをカワイはスプーンで掬い、俺の口元に運んだ。
「ん~っ、おいしいっ! なにこれ、どこで買ったの?」
「ゼロタローに教わって、ボクが作った」
「そっかそっか、ゼロ太郎に教わってカワイが作っ──えっ?」
つまり、カワイ手作りの料理をカワイ自ら『あーん』してくれた、ってこと? なにそれ新婚じゃん、結婚してるじゃん。
「ありがとう、カワイ。絶対幸せにするね……」
「うん? ありがとう?」
俺の推し悪魔、本当にいい子すぎる。ポテトサラダにちょっぴり塩味をトッピングしてしまいながら、ただただ俺は幸福を噛み締めた。
カワイはほろりと泣いている俺を訝しみつつ、ポテトサラダが盛られた小皿を見つめる。
「悪魔にも、味覚はある。でも、悪魔は基本的になにを食べても体に害はないから、人間の味覚とは少し違う。……それに」
言葉を区切って、カワイは俺を見上げた。
「──ボクが『おいしい』って言われたいのは、ヒトから。ボクは、ヒトの好みを沢山知りたい」
……っ。カワイ、狡いなぁ。不覚にも、ジンとしちゃったよ。
俺にとって、家族はゼロ太郎だけだった。そこに不満なんかなかったけど、こんな家族らしい触れ合いは未体験だから、かな。
「メチャメチャおいしいよ、このポテトサラダ。文句なしで、大満足のパーフェクト」
「ホント?」
「本当だよ」
「そう。……良かった。嬉しい」
本当に、俺にはもったいなく思えるくらい、贅沢だ。
……駄目だ、良くない。このままだと、本気で泣いてしまいそうだ。この空気を変えるべく、俺は強引に話題を切り替えた。
「ところで、言われた通りにお酒を買ってきたんだけど……これにはいったいどんな意味が?」
「今日のヒトは仕事を頑張ったって聞いた。疲れた時にお酒を飲むのが社会人の楽しみだと思って、買ってきてもらった」
出たぞ。カワイの、ちょっとズレた人間界の常識。
俺の仕事状況は、十中八九ゼロ太郎から聴いたとして。そうか、これは俺を想ってのおつかいだったのか。
「最初はボクが買ってくるつもりだったけど、ゼロタローが『ムリだ』って言うから……」
「そうだねぇ。カワイの見た目じゃ、無理かなぁ」
「人間界は生き難い」
「そんなところで感じなくても……」
なんだなんだ、今日は勤労感謝の日なのかと錯覚してしまいそうだぞ?
優しい同居人たちにやはりジンとしつつ、俺は一先ずスーツから着替えることにした。
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