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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟む今日の俺は、取引先が使っている複雑なデータをより分かり易くするための作業に熱中していた。
なんでも、以前までそのデータを使っていた担当者が今月辞めてしまったとか。そのデータが不必要なほどに複雑で、取引先もお手上げ状態だったらしい。
で、そのデータを貰っていた我が社も困惑と戸惑いのダブルコンボ。さらに言うのであれば、そのデータは別の企業に提出しなくてはならないので緊急性まで発生。
ということで出しゃばったのが、俺だ。月君に『怖い』と言われても手を止めなかった理由が、それである。
昼休憩のチャイムが鳴って数分後、俺はグイーッと体を伸ばした。
「でっ、できたぁ~っ!」
[お疲れ様です、主様]
気付けば事務所に人がいなくなり、それを見計らったゼロ太郎がスマホからポンと労いの言葉をかけてくれる。
「ありがとう、ゼロ太郎。いやぁ~、くたびれたぁ~……」
[なかなか作業が難航していましたね]
「いや本当に、元データの複雑さにビックリ。ひとつのシートから引用すればいいのに、わざわざシートをいくつも跨ぐ式を使ってるんだもん。解読に時間がかかっちゃったよ」
[そうでしたか。お疲れ様です]
だけど、ゼロ太郎にとっては朝飯前の作業なんだろうなぁ。同居人の有能さに憧れるし、痺れるよ。
「後は課長に確認してもらって、それから元データをくれた取引先にメールで改訂版を送らなくちゃ。……あぁ~っ、本当にくたびれたぁ~……」
[先ずは昼休憩を取るべきだと思いますよ。カワイ君お手製のお弁当が待っていますから]
「そうだった! 今の俺は弁当持ちだ!」
[ステータスじみた言い方をするほど嬉しいのですね]
言うまでもない、当たり前じゃないか。俺はカワイが持たせてくれたお弁当袋を手に取って、休憩室に向かう。
空いていた席を見つけ、着席。スマホを立てかけてから、俺は持参させてもらったお弁当を開封する。
「おおっ! 今日のお弁当もおいしそうっ!」
ミニハンバーグに、ブロッコリー。玉子焼きと、きんぴらごぼう。いいじゃないですか、いいじゃないですか。
「三角もどきのおにぎりも、努力が垣間見えてとても愛おしい。スマホの待ち受けにしようかな」
[気持ちは分かります。カワイ君の努力は、見ていると元気がもらえます]
珍しくゼロ太郎も同意だ。カワイはなんて素敵な男の子なのだろう。
一先ず、お弁当をパシャリ。俺は記録としてお弁当を保存した後、昼食を開始した。
「あぁ~、疲労が取れていくぅ~っ。ご飯って、すごいんだねぇ~……」
今までゼリー飲料に不満を持ったことはなかったけど、お弁当の魅力には敵わないなぁ。ゼロ太郎とカワイ──家族が作ってくれた、ってところも高ポイントの理由だろうけど。
思えば、誰かにお弁当を作ってもらった経験なんて──……いや、やめよう。昔を思い返して良くない気分になるのは、救えない。
そもそも俺は、もう【思い返すこと】すら許しては──。
「んっ? メッセージ?」
不意に、スマホが振動する。メッセージアプリが誰かからの連絡を通知しているようだ。
「なんだろう」
[カワイ君からですよ]
「えッ! カワイからのメッセージッ?」
なんと、カワイが初めてメッセージを送ってくれたらしいではないか。俺はピンと、意味もなく背筋を正してしまった。
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