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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むそんなこんなで、気付けば金曜日。今日も今日とてカワイの発言で見事に起床を果たした俺は、寝惚け眼を擦りながらカワイに近付いた。
「おはよう~。カワイは今日も、朝から素敵な男の子だね~」
「ありがとう。ヒトもステキだよ」
「受け答えまで最高なんだけど! 素敵だねっ!」
「笑顔のヒトもステキだよ」
[──朝から妙な即興劇はおやめください]
俺たちどっちも真剣なのに、まさかのエチュード扱い。ゼロ太郎は相変わらずだ。
カワイはポニーテールを解き、食卓テーブルに俺を引っ張る。朝食が並んでいるのだ。
いったい、カワイはいつも何時に起きているのだろう。……気になったので、訊いてみよう。
「ねぇ、カワイ。君は、いつも何時に起きてるんだい?」
「『起きなくちゃ』って思ったら起きてる。それよりも、今日のオススメはもやしの和え物。食べて」
「はぁ~いっ、食べまぁ~すっ」
モグモグ。……ふむ、オススメと言うだけあっておいしいぞ。もやしのシャキシャキ感が歯と耳に心地いい。これぞ、もやし。つまり和え物が乗ったこのお皿は、もやしの独壇場ではないか? 素晴らしい、スタンディングオベーションだ。
……って、あれっ? 話題がサラッと変わっている。なぜ?
「どう? おいしい?」
「うん! とってもおいしいよっ。いつも本当に、お料理ありがとう」
「色々覚えるの、楽しい。もっと沢山のご飯を作れるようになるね」
「それは楽しみだな~っ。……って、おっと。また脱線だ。あのね、カワイ。実は俺、早起きが苦手なんだ」
「うん、知ってる」
「ですよね」
いや、違う違う。俺の不甲斐なさを再認識してもらいたかったんじゃなくて。
「つまりなにが言いたいかと言うと──」
[──カワイ君が無理をしていないかが心配なのですよね]
「──お願い。俺に言わせて?」
まぁ、そういうことなんだけども。もやしのシャキッと感を味わいながら、俺は肩を落とす。
いやいや。ゼロ太郎に大事な部分を横取りされたけど、だからと言って気を落としている場合ではないか。俺は気を取り直して、カワイと向き合う。
「つまりゼロ太郎が言った通りで、そういうこと。だから、眠たい日とかは無理しなくていいからね?」
「分かった、ムリしない」
「早起きがつらい時は誰にだってあるからね、恥ずかしいことじゃないよ。だから、無茶はしちゃ駄目。……分かった?」
「分かった。ムチャもしない」
無表情のまま、カワイはコクコクと頷く。なんだ、素直で可愛いぞ。カワイが可愛いのは、今に始まったことではないが。
しかし、ふと。カワイはフォークで食事を進めながら、ポソッと呟いた。
「でもたぶん、ボクはずっと平気だよ」
食器に落としたカワイの視線が、上がる。宝石のように綺麗なカワイの瞳が、俺に向けられて──。
「──ヒトが喜んでくれたら、ボクも喜んじゃうから。『全ての過程がヒトの笑顔に繋がっている』って思うと、ボクはなんでも嬉しい」
かちゃっ。俺はそっと、箸を下ろした。
それから俺は、箸を持っていた手で己の目頭に触れて……。
「──ちょっとこのもやし、ワサビ強めじゃない?」
「──ワサビは入れてないよ」
そっと、泣いた。
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