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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟む着替えを終えて戻ってくると、食卓テーブルの上にはカワイとゼロ太郎が作ってくれた晩ご飯が並べられていた。
とろみ汁と、サラダ。そして、カワイお手製のおむすびだ。
「おぉ~っ! 丸から俵型になっている!」
「次は、三角の練習をする。でも、難しい。なかなか、キレイな三角形になってくれない……」
「どんな形でも俺はおいしくいただくよっ。ありがとう、カワイ。ゼロ太郎も指南役、ありがとう」
[どういたしまして]
俺も三角のおむすびなんて握ったことないんだけどさ。カワイは努力家で、素敵な男の子だ。カワイの成長に感動しながら、俺はスマホを取り出した。
[主様? お食事前にいったい、なにをなさっているのですか?]
「二人が作ってくれたご飯の写真を撮ってる」
[……なぜです?]
「いやだって、せっかく二人が頑張って作ってくれたのに、食卓テーブルの上で消えていくだけっていうのは寂しいじゃん?」
[……。……そう、ですか]
これは呆れられたのか? 引かれたのかもしれない。
だが、ふふーんっ! 分からなくて結構! ゼロ太郎の理解が得られなくても、俺のスマホの待ち受け画面はこの食卓の写真に設定されるからね!
ちなみに、昼のおにぎりはメッセージアプリのアイコンに設定した。とても食いしん坊なキャラに思われそうだが、その辺りはなんでもいい。ただの自慢だ、許してほしい。
「それじゃあ早速だけど、いただこうかな。……いただきますっ!」
先ずは、サラダから食べてみよう。
サラダなんて、コンビニ弁当に入ってるポテトサラダくらいしか最近は食べてないからなぁ。……いや、最近でもないか? 最後に食べたのいつだったっけ?
なぜだか無性に虚しい思い出を回想しつつ、カワイがゼロ太郎に教わって作ったサラダを一口。
ふむ。ほう、ほうほう。なるほど、これは……。
「んっ! このジャガイモのサラダ、おいしいね! シャキシャキって食感が、なんだろう……? 『ご飯を食べてる』って感じで楽しいよっ」
「良かった」
端的に言おう。『おいしい』と。
まさか仕事終わりに、誰かが作ってくれた料理を食べられる日がくるとは……。嬉しすぎる、幸福だ。
緩み切った表情で舌鼓を打つ俺を見て、カワイはキリッと眉を上げる。
「もっと色々、沢山の料理を作れるようになるね。肉とか、魚とか……揚げ物も作れるようになりたい」
「秀才じゃん、結婚しよう?」
[──主様]
ひえっ。俺の家族がメチャメチャ怖い。
[ですが、こうして食事を作っていただけるのは大変助かります。私の本懐を為せるのですから、気分も良いと言うものです]
「うぅっ。それは不健康な食事をしている俺に対する当てつけかい?」
[えぇ、そうですね]
「即答~……」
月君にも心配させちゃっていたみたいだし、少しは食生活を改善しなくちゃいけないよなぁ。とろみ汁を啜りつつ、心の中で反省する。
そんな俺に追い打ちをかけようとしているのか、たまたまか。ゼロ太郎はさらに、追撃じみた発言をしてきた。
[主様の生活力は底辺です。むしろ底辺を突破し、さらなる下層を目指して穴を掘り続けているレベルです]
「えっ、そこまで言う?」
[カワイ君もお察しかもしれませんが、正直、主様に比べるとカラスの方が生活力はあるかもしれませんね]
「えっ、カラス? それはなんだい、どういう意味だい、ゼロ太郎?」
カワイが、宙を見た。おそらく【ゼロ太郎と目を合わせている】という動作だろう。
それから二人は、声を揃えて──。
「[──ゴミの回収曜日]」
「──完敗ですッ!」
確かに知らない! 何曜日にどのゴミを回収してくれるかなんて、俺には分からないよ!
カラス未満の生活能力に愕然とした俺を見て、ゼロ太郎は淡々とした口調でこう訊ねた。
[それを踏まえた上で、問います。私とカワイ君に主様は、なにか言うことがあるのでは?]
「ご飯、本当においしいです。これからも、よろしくお願いいたします」
[よろしい]
主人兼保護者の立場がないよう……。シュンと猛省しながら、俺は二人に向かって深々と頭を下げた。
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