上 下
52 / 148
3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】

10

しおりを挟む



 着替えを終えて戻ってくると、食卓テーブルの上にはカワイとゼロ太郎が作ってくれた晩ご飯が並べられていた。

 とろみ汁と、サラダ。そして、カワイお手製のおむすびだ。


「おぉ~っ! 丸から俵型になっている!」
「次は、三角の練習をする。でも、難しい。なかなか、キレイな三角形になってくれない……」

「どんな形でも俺はおいしくいただくよっ。ありがとう、カワイ。ゼロ太郎も指南役、ありがとう」
[どういたしまして]


 俺も三角のおむすびなんて握ったことないんだけどさ。カワイは努力家で、素敵な男の子だ。カワイの成長に感動しながら、俺はスマホを取り出した。


[主様? お食事前にいったい、なにをなさっているのですか?]
「二人が作ってくれたご飯の写真を撮ってる」

[……なぜです?]
「いやだって、せっかく二人が頑張って作ってくれたのに、食卓テーブルの上で消えていくだけっていうのは寂しいじゃん?」

[……。……そう、ですか]


 これは呆れられたのか? 引かれたのかもしれない。
 だが、ふふーんっ! 分からなくて結構! ゼロ太郎の理解が得られなくても、俺のスマホの待ち受け画面はこの食卓の写真に設定されるからね!

 ちなみに、昼のおにぎりはメッセージアプリのアイコンに設定した。とても食いしん坊なキャラに思われそうだが、その辺りはなんでもいい。ただの自慢だ、許してほしい。


「それじゃあ早速だけど、いただこうかな。……いただきますっ!」


 先ずは、サラダから食べてみよう。
 サラダなんて、コンビニ弁当に入ってるポテトサラダくらいしか最近は食べてないからなぁ。……いや、最近でもないか? 最後に食べたのいつだったっけ?

 なぜだか無性に虚しい思い出を回想しつつ、カワイがゼロ太郎に教わって作ったサラダを一口。
 ふむ。ほう、ほうほう。なるほど、これは……。


「んっ! このジャガイモのサラダ、おいしいね! シャキシャキって食感が、なんだろう……? 『ご飯を食べてる』って感じで楽しいよっ」
「良かった」


 端的に言おう。『おいしい』と。
 まさか仕事終わりに、誰かが作ってくれた料理を食べられる日がくるとは……。嬉しすぎる、幸福だ。

 緩み切った表情で舌鼓を打つ俺を見て、カワイはキリッと眉を上げる。


「もっと色々、沢山の料理を作れるようになるね。肉とか、魚とか……揚げ物も作れるようになりたい」
「秀才じゃん、結婚しよう?」

[──主様]


 ひえっ。俺の家族がメチャメチャ怖い。


[ですが、こうして食事を作っていただけるのは大変助かります。私の本懐を為せるのですから、気分も良いと言うものです]
「うぅっ。それは不健康な食事をしている俺に対する当てつけかい?」

[えぇ、そうですね]
「即答~……」


 月君にも心配させちゃっていたみたいだし、少しは食生活を改善しなくちゃいけないよなぁ。とろみ汁を啜りつつ、心の中で反省する。

 そんな俺に追い打ちをかけようとしているのか、たまたまか。ゼロ太郎はさらに、追撃じみた発言をしてきた。


[主様の生活力は底辺です。むしろ底辺を突破し、さらなる下層を目指して穴を掘り続けているレベルです]
「えっ、そこまで言う?」

[カワイ君もお察しかもしれませんが、正直、主様に比べるとカラスの方が生活力はあるかもしれませんね]
「えっ、カラス? それはなんだい、どういう意味だい、ゼロ太郎?」


 カワイが、宙を見た。おそらく【ゼロ太郎と目を合わせている】という動作だろう。
 それから二人は、声を揃えて──。


「[──ゴミの回収曜日]」
「──完敗ですッ!」


 確かに知らない! 何曜日にどのゴミを回収してくれるかなんて、俺には分からないよ!
 カラス未満の生活能力に愕然とした俺を見て、ゼロ太郎は淡々とした口調でこう訊ねた。


[それを踏まえた上で、問います。私とカワイ君に主様は、なにか言うことがあるのでは?]

「ご飯、本当においしいです。これからも、よろしくお願いいたします」
[よろしい]


 主人兼保護者の立場がないよう……。シュンと猛省しながら、俺は二人に向かって深々と頭を下げた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

処理中です...