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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むカワイのおかげで、今日の業務は元気に終了。
ルンルン気分で歩く俺は、いつもならつい使ってしまうエレベーターに頼らず、階段を上がるほどに元気だった。
いや、別にね? 決して、今日ぶつかった月君の筋肉がすごかったなぁとか、そんな劣等感からの悪足掻きではないよ? 本当だよ、うんうん。
いったい、誰への弁明なのか。とにもかくにも俺は玄関扉を開けて、帰宅を果たした。
「おかえり、ヒト」
するとすぐに、カワイがリビングから姿を現してくれたではないか。これには、俺の表情筋も緩む。
「ただいまっ! 嗚呼っ、カワイの『おかえり』は格別だなぁ~っ」
「そうなんだ。それと、お仕事お疲れ様」
「ありがとうっ! カワイの言葉は沁みるなぁ~っ」
帰宅直後に抱き締めるカワイも、また格別。これが、悪魔セラピーってやつか。今初めて命名したけど。
[おかえりなさいませ、主様]
「うん、ただいま。それと、今日はあまり喋れなくてごめんよ~」
[いえ全くノーダメージですので、ご安心を]
「その言葉で俺は大ダメージだよ。少しは寂しがってよ」
ゼロ太郎に限って、そんな可愛らしい反応はあり得ないけど。
有無を言わせず抱き締められたカワイは、ジッと俺を見上げた。
「今日はゼロタローと話せないくらい、お仕事忙しかったの?」
「ううん、別に。ただ、今日は後輩君とお昼が一緒だったんだ」
ゼロ太郎を交えて三人で会話をしてもいいんだけど、ゼロ太郎はそういう時、絶対に喋らないんだよなぁ。俺が話題を振れば別だけど、そこまで強引に輪の中に混ぜるのも違う気がする。
なので、誰かと食事をする時はゼロ太郎との会話がなくなるのだ。特にゼロ太郎と打ち合わせをしたわけでもないけど、暗黙の了解ってやつだね。
「それにしても、今日はなんだかいい匂いがするね。あっ、カワイがいい匂いなのはいつものことなんだけどさ?」
「ありがとう。でも、ヒトが感知している【いい匂い】はたぶん料理の匂い」
そう言い、カワイは俺の手を握った。
「今日は晩ご飯も作ったから、見てほしい。おにぎりだけじゃないよ」
「おぉっ、成長が目覚ましい」
最早なんのために揃えたのか分からない調理器具が日の目を浴びる日がくるなんて……。感動だ。
手を引かれて連れてこられたのは、キッチンだった。カワイに促されるまま、俺はいい匂いの根源たる鍋を覗く。
「スゴイ! おにぎりだけじゃなくて、お味噌汁まで作ってくれたなんて!」
「オクラとなめこの……えっと、なんだっけ?」
[とろみ汁です]
確かにトロトロしそうな組み合わせだ!
とろみ汁ってものは食べたことがないけど、匂いで分かる。絶対においしいやつだ、これは。
初めて役目を果たし始めた鍋を見て感動している中、カワイはお皿に盛りつけたサラダも見せてくれた。
「それと、ジャガイモのサラダも作った」
「天才じゃん、結婚しよう?」
[──主様]
うっ。ゼロ太郎の冷たい声が刺さる。俺はカワイの肩に載せようと思った手を、そっと引いた。
「晩ご飯、楽しみだなぁ。急いで着替えてくるねっ」
「うん。待ってる」
カワイとの結婚は一先ず諦めて、着替えてこよう。鼻腔をくすぐるいい匂いを堪能しながら、俺は着替えるために一度、キッチンから離れた。
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