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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むだが、なんと言っても今日の俺はウキウキのルンルンだ。
いつもは憂鬱でしかない出勤だけど、助手席にカワイお手製のお弁当があると思えば、気分はドライブデート。
普段なら絶対にテンションが上がらない仕事時間も、カワイがニギニギしてくれたおむすびがあると思えば有頂天ビバ──このネタは前にも使ったっけ。自重しよう。
とにもかくにも、今日の俺は浮かれに浮かれていた。それもそうだろう。カワイが用意してくれたお弁当なんて、テンション上がっちゃうでしょ。『クールでいろ』って方が無理な話だよ。
などと、浮足立った状態で事務所内を歩いていると……。
「あいたっ!」
「おっと!」
ドンと、正面からやって来た月君に衝突してしまった。ちなみに、最初に声を出したのが俺だ。月君の方が冷静なのは、たぶん筋肉によるカバーが大きいだろう。
なんにせよ、ボーッとしていた俺が悪い。慌てて、月君に謝罪の言葉を送る。
「ごっ、ごめんね月君! 怪我はない? 大丈夫?」
「や、大丈夫ッスよ。それより、センパイこそ大丈夫ですか? 落としたファイルから書類、結構ハデに散らばっちゃってますけど」
「あぁ、うん。俺は大丈夫なんだけど、えっとえっと!」
駄目だ! 仕事中に考えごとをして上の空だったなんて、後輩に示しがつかないではないか!
散らばってしまった書類を集めながら、俺はどうにかこの場を誤魔化すための言い訳を考えて……。
「──月君が大きくて全然見えなかったよ!」
「──そんなことありますッ?」
見事に失敗した。
書類を拾うのまで手伝ってもらったのに、言い訳までしてしまうなんて。俺は肩を落として、正直に真実を語る。
「いや、ごめんね。本当は、カワイがお弁当を作ってくれたのが嬉しすぎて、上の空のまま歩いていただけなんだ……」
「へぇ、手作りのお弁当ッスか! いいッスね~っ」
「え? あげないけど?」
「奪うつもりもないッスけど……」
書類を拾い終えて、俺たちは各々のデスクに向かう。
椅子に座ってからすぐに、俺は月君に水筒を見せた。
「しかも、見て。カワイ、水筒にお茶を入れて持たせてくれたんだよ。嬉しいなぁ」
「へぇ~っ、甲斐甲斐しいッスね~! 羨ましいッス!」
「は? カワイは渡さないよ?」
「いただくつもりもないッスけど……」
月君は「共同生活を楽しめているなら、なによりッスけど」と言って、ニコニコしながら俺を見てくれている。
な、なんだか嬉しいぞ。課長が飲み会で娘さんの話ばかりする気持ちが、少し分かった。自分の好きな子の話を聴いてもらえるのって、想像していた以上に嬉しいものなんだ!
心優しい後輩の対応に、俺は思わず調子づく。
「カワイが用意してくれたと思うと、この水筒のお茶も可愛く見えてくるんだよねぇ~っ」
「へぇ~っ、なるほど~っ!」
しかし、ニコニコと温かな笑顔が、一変。
「──いやセンパイ、それはマジでヤベェッスね」
「──同意してほしいとまでは言わないけど、引かれるのはさすがに傷付いちゃうよ」
そう言い、月君は俺のデスクからスッと身を引いた。笑みを消して、表情を強張らせながら。
俺は心の中で、そっと気付く。課長の娘さんトークも、確かに一往復程度の会話なら平気だけど、多いと困るんだよなぁ……と。
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