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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むあれは、カワイがこの部屋で暮らすようになって二週間ほど経ったある日のことだ。
珍しく定時少し過ぎに退社できた俺は、カワイのためにとあるお店に寄ってから帰宅した。
「はい、カワイ。これをあげるね」
そして帰宅と同時に、俺はカワイに【ある物】を渡したのだ。
「ありがとう。でも、なにこれ?」
そう。これこそが、ゼロ太郎とカワイが一緒に外出できるようになった奇跡のアイテム。
「これはスマホって言って、とにもかくにも便利な物だよ」
カワイ専用のスマホだ。
仕事終わりに携帯ショップが開いていたのはラッキーだった。俺はササッと契約を済ませ、カワイのためにスマホを購入。無論、子供用だ。
「俺たちにはゼロ太郎がいるし、俺がどこにいても連絡には困らないんだけどさ。まぁ、備えあればなんとやらってことで」
[操作方法は私の方で指示いたしましょう]
いつも俺のそばにいるゼロ太郎は、カワイ用のスマホを購入したこともリアルタイムで知っている。話が早い同居人で助かるよ、本当に。
基本的に部屋の中にいるカワイには、不要かもしれない。困ったことがあれば部屋に搭載されているゼロ太郎がカワイに指示を送れるし、画像も動画も壁や天井や空中に表示できる。
だが先ほど言った通り、備えあれば患いなしだ。カワイは箱に収まるスマホを見て、頷いた。
「よく分からないけど、とてもステキですごくすごい道具だってことは分かった気がする」
心なしかカワイが喜んでいる気もしたし、購入した意味はあったかな。
ネクタイを解きつつ、俺はピコンと思い出す。
「そうそう! スマホでスタンプが買えるように、電子マネーを少しだけチャージしておいたから。好きなスタンプを買っていいからね」
「スタンプ? それは、買うといいことがあるの?」
「俺とのメッセージがちょっぴり華やかになる」
「スタンプ、いい物だね」
カワイの瞳がキラリと輝いた。……気がする。
スマホを箱から取り出しつつ、早速カワイは操作を始めた。
「なにかいいスタンプがあるか、探してみる」
「うんうん。気に入るデザインがあるといいね」
宣言をしてから、熱心にスマホを眺めている。……なんだか、子供が初めての携帯電話にはしゃいでいるみたいで可愛いなぁ。
カワイがスマホに気を取られている間に着替えを済ませて、俺はそそくさとリビングに戻った。するとすぐに、カワイが俺に駆け寄る。
「これが欲しい。でも、どうやって買うのか分からない」
「いいよ、教えるね。えーっと、どれどれ?」
「この、ウサギとイヌと人間が融合した結果、最終的には悪魔になっちゃったってスタンプ」
「どんな精神状態になったら欲しくなるの、このスタンプ」
しかもその物語性、全く要らなくない? イラストそのものはただの悪魔だよ?
まぁ、カワイが欲しがるのなら買ってあげよう。購入並びにダウンロードを済ませると、カワイが早速俺にスタンプを送ってきた。勿論、俺もスタンプで応戦する。
「ふふふっ、カワイからのメッセージならレス五分以内は当たり前だよ」
「ボクも五分以内は朝飯前だよ」
[お互いがそうしてしまうと、やり取りをやめられないですよね? 地獄の始まりな予感ですけど?]
結局、部屋いっぱいに詰められたゴミの分別やらなにやで一日をマッハで過ごしていたカワイからメッセージが送られることはなかったけどね。
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