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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むこんな状況でも、冷静な住人が一人。
[主様。『見られた』のではなく『見せた』の間違いですよ]
違う! ゼロ太郎のツッコミは正しいけど、問題はそこじゃないんだよ!
俺は開け放った時とは比較にならないほどの速さで、扉を閉める。それから扉の前に立ち、まるで扉を守るかのような姿勢で弁明を始めてしまった。
「ごごご、ごめんね! 最近ちょっとだけ、本当にちょっとだけ忙しくて! だからあのっ、これは違うんだよ!」
[実際はなにも違わないのですが──]
「──ゼロ太郎! しっ!」
カワイと指切りして、カワイはしっかり約束を守って、それでずっとずっと隠し通せていたのに! うっかりミスで、開けてしまった! パンドラの箱を!
覗かせてしまったパンドラの箱の中身に、カワイはなにを思っただろう。幻滅されていたら、どうしたらいいんだ?
恐る恐る、カワイを見る。するとカワイは、自分の手をキュッと握っていた。
「どうして、ボクに隠していたの」
これはもしかして、怒っているのか? それとも俺に呆れて、嫌われてしまったとか──。
「──掃除くらい、ボクがするのに」
続いた言葉と、カワイの表情。ムッと唇を尖らせたカワイを見て、俺は言葉を失くしてしまった。
可愛いとか、その顔は初めて見たとか。そんな感想ひとつ、零せない。
「頼ってよ、ボクのこと。ヒトのためなら、ボクはなんだってするんだから」
クールな声に、拗ねたような口調。カワイは顔にほんのりと【怒】と描きながら、俺に詰め寄る。
そんな俺たちを見て、ゼロ太郎は『これは良くない』と思ったのだろうか。すかさず、言葉を挟んだ。
[ゴミの分別なら、私にお任せを。カワイ君に指示をいたします]
「ボクとゼロタローに不可能はないよ」
……。……た。
──たっ、頼もしすぎる! 俺の同居人たち、最強すぎるだろっ!
俺が感涙していると、ゼロ太郎がため息交じりにぼやき始めた。
[正直な話、何れそちらの部屋はカワイ君に知られるとは思っていましたよ。確率演算、百パーセントでしたから]
「ほら、ゼロタローもこう言ってる」
「うぅっ。ごめんなさい……」
なんて強いタッグなんだ。勝てる気がしない。俺はそろそろっと、床に正座する。
そんな俺を見て『今がチャンス』とでも思ったに違いない。ゼロ太郎は畳みかけるように、言葉を重ねた。
[まったく。主様はどうして、仕事とプライベートだとこんなにも差があるのでしょうか。恥ですよ、恥。生活をサポートするという役目を担う私の気持ちも考えてください]
「うぅ~っ。ごめんなさいぃ~っ」
返す言葉もないとは、まさにこのこと。俺は正座のまま、ただただ縮こまる。
すると、どうやらカワイはゼロ太郎の言葉に疑問を持ったらしい。コテンと小首を傾げ、不思議そうにし始めた。
「差? ヒトの帰りが遅かったのは、仕事ができないからじゃないの?」
「えっ、待って? カワイ、俺のこと【仕事ができない駄目な会社員】だと思ってたの?」
驚愕だよ、驚愕。いや別に自己評価が高いとか自惚れとか、そういうアレじゃないけどさ。えっ、カワイ、えっ?
動揺する俺の代わりに、俺の評価を下げるのは可哀想だと思ってくれたのだろうか。ゼロ太郎が、職場での俺を説明し始めた。
[本日の主様は、経験者が二人がかりでどうにか本日中に終わらせられる予定の作業を任されていたのです。過去資料の場所は不明、作業経験はゼロ、加えてご自分がこなさなければならない雑務も片付けながら]
「それを、ヒトは終わらせたの?」
[はい。贔屓を抜きに申し上げますが、おそらく本当の担当者様お二人がお作りになられるよりも、遥かに良質な資料の出来栄えかと]
「そうなんだ」
くるりと、カワイが俺に向き直る。その目は、少しだけ輝いているように見えた。
「ヒト、すごくすごい。カッコいい」
「あはは……。汚名返上できて、なによりだよ……」
ゼロ太郎からの評価に照れつつ、カワイから受けていた評価が覆ったことに複雑な思いを抱きつつ。ただ俺は正座を崩さずに、引きつったような苦笑いを浮かべるしかできなかった。
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