未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
38 / 212
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】

26

しおりを挟む



 まさか、二日連続でカワイと通話をする必要が出てくるとは。俺の心はあまりに脆い。

 報連相という建前のもと、癒しを摂取するために。昼休憩を迎えた俺はゼロ太郎に頼み、昨日と同様に自室との音声通信を繋いでいた。


「もしもし、カワイ? 聞こえる?」
『うん、聞こえる。ゼロタローが通信、繋いでくれたから』

「さすが有能なゼロ太郎だ! ……じゃなくて。ごめんね、カワイ。帰り、もしかすると日付変わっちゃうかも」


 やれと言われたら、やる。相手が上司なら、なおのこと。

 立派な社畜根性を抱えた俺は、ゼリー飲料を吸いながら決意を固めていた。カワイにこうして宣言をしたのだから、なにを賭してでも必ず成し遂げるのだ。


「帰ってからご飯食べるけど、カワイは先にご飯食べちゃっていいからね? 昨日買ってきたものでも、他に食べたいものがあったら出前でもなんでもして食べていいから」


 まぁ、俺の晩ご飯はゼリー飲料になりそうだけど。食にこだわりがない俺は『とりあえず三食は食っておけ』的な精神に則って、なにかを胃に流し込むだけだし。

 だがカワイは、意外な返事を口にした。


『ううん、待つ。ヒトの帰り、ゼロタローと一緒に待つよ』


 カワイなら、ひとつ返事で応じると思ったけれど……。意外にも、カワイは俺の提案を拒否した。

 胸がギュギュッと絞られるほど、嬉しい。カワイが俺の帰りを待っていてくれるなんて、嬉しいに決まっているのだ。

 だが、さすがに待たせるのは忍びない。ただでさえいつも部屋の掃除や洗濯をさせてしまっているのだから、休めるときはしっかり休んでほしいのだ。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当に帰り遅くなっちゃうからさ。お腹も空くだろうし、眠くなるよ?」
『悪魔は人間と同じ食事と睡眠をとらなくても平気。……それに』


 カワイが一度、言葉を区切る。それから、すぐに──。


『──ヒトがいないとご飯はおいしくないし、夜も眠れない。だから、ヒトの帰りを待ちたい』


 なん、だと。俺の胸を絞るどころか、引き千切りにきた、だって?

 もしも今、俺が普通の電話と同じようにスマホを手にしていたら。きっとそのスマホは急転直下し、ブルーなりレッドなり、スクリーンの色を変えていたことだろう。

 俺の心情なぞ、露知らず。カワイは淡々とした普段通りの口調で続ける。


『お仕事、ムリしないでね。帰ってきたら、ギュッってしてあげる。ヒトがボクにそうしてくれると、胸の辺りがふわ~ってなるから』
「カワイ……」

『ゼロタローと一緒に、ヒトが帰ってくるの待ってていい?』
「……うん、いいよ。ありがとう、カワイ」


 通話を終えて、昼休憩も早めに切り上げ。俺はスマホをポケットにしまい込み、事務所に戻る。

 すると、これからお昼なのだろうか。コンビニへ向かうためにいそいそと準備をしている月君と、目が合った。


「あっ、センパイ? カワイ君と電話、繋がりました? ……って、どうしたんですか? なんだか、足取りが重いですよ?」


 俺は椅子の背もたれをガッと勢いよく掴み、すぐに着席。
 それから、両手で顔を覆い……。


「──俺の同居人、マジで天使すぎる」
「──拾ったのは悪魔では?」


 俺は、事務所の天井を仰いで幸福を噛みしめた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...