27 / 212
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
15
しおりを挟む一度部屋から追い出され──もとい、出てしまえば、腹をくくるしかない。
「追着係長。こちら、課長から渡すよう頼まれた資料です」
職場でパソコンとにらめっこしていると、名前を呼ばれた。俺は眼鏡をかけたまま、声がした方をくるりと振り返る。
視線の先に立つ女性職員が持っているファイルは、俺が課長から頼まれた仕事をする上で必要な書類の束だ。俺が借りようとした時は、課長がそのファイルを見ていたので借りられなかったのだが……。
「うん、ありがとう。助かるよ」
どうやら、課長は使い終わったみたいだ。俺は思わず笑みを浮かべてしまいながらも、女性職員からファイルを受け取った。
すると、俺にファイルを手渡した子は一度、なぜかビクッと体を震わせたではないか。
「い、いえ……」
加えて、んんっ? 顔が赤くなった、ような?
不可解な変化の真意が分からない俺を置いて、用事を終えた女性職員は去っていく。なんだろう、俺、なにかしちゃったのかな。
なんて戸惑う俺に、隣に座る月君が声をかけてきた。
「センパイ、センパイっ、いつも鈍いセンパイですけど、さすがに気付きましたよね?」
いつも鈍い? ……は、よく分からないけど。俺は体を月君に向けて、静かに頷いた。
「うん。先輩、分かっちゃった」
「いやそんな『アイコピー』って返事をするあの競走馬娘ちゃんみたいなテンションで言われても。……いや、それはいいか。ですよねっ、ですよねっ! 分かりましたよね!」
ネタの説明が長いよ、照れちゃうよ。ボケは説明される方が恥ずかしいんだからね。……というツッコミは本格的に収拾がつかなくなるので、しない。
俺はしっかりと月君の目を見て、もう一度頷いた。月君は笑顔で『待っていました!』と言いたげだ。なぜ?
ということで、俺と月君の答え合わせだ。
「今のは……風邪、だね」
「そうそう、風邪──……へっ?」
俺は自分の口元に手を当てて、悩む素振りを見せる。
「マスク渡した方が良かったかな? でも、ありがた迷惑になっちゃう可能性もあるよね。それに『風邪を移すなよ』って意味で取られる可能性もあるから、失礼かもしれないし……。大丈夫かなぁ、あの子」
顔が赤くて、ちょっと不可解な行動……。うん、どう考えても風邪だ。しかも、発熱を伴うタイプの風邪だよ。
うんうんと頷く俺は、月君に最適解を返したつもりだ。確信しかないのだから。
だが、どうやら月君は俺の答えがお気に召さなかったらしい。
「センパイ、マジ鈍すぎッス」
疑い半分、憐れみ半分。そんな割合の顔と声を、向けられてしまった。
しっ、心外だ! こんなにも目敏い俺のいったいどこがどう鈍いと言いたいんだ、月君は! 驚愕が止まらないよ!
だが、そんな俺はスルーの方向らしい。若しくは、受け止めた上での対応か……。月君はわざとらしいため息をそれはそれは深く深く大袈裟に吐いた後で、俺をジッと見つめた。
「センパイ、もっと周りからの評価を気にしましょうよ」
「失礼な! こう見えてかなりの気にしいだよ、俺は!」
さすがの俺も黙ってはいられない。己の胸にドンと手を当て、俺は月君としっかり向き合う。
「──だから可笑しなセンスにならないように、このスーツもワイシャツも靴も靴下もネクタイも、ブルーライトカットを目的にしたこの眼鏡だって! 全部ゼロ太郎に選んでもらったんだからね!」
「──そういうことじゃないです」
じゃあどういうことなんだいっ! 先輩、分かんないっ!
これがジェネレーションギャップというものなのかと衝撃を受けつつ、俺は負けじと月君に応戦し続けた。
42
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる