26 / 212
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
14
しおりを挟むだからこそ起こる、俺の発作。
またの名を、駄々こね。
「こんなに俺想いのカワイと離れるなんて、ヤッパリ良くないよな! うん、良くない! 今日は有給を取って、飲み会もキャンセルしよう!」
そうと決まれば、早速会社に電話だ! もう俺は止められないぞ、フハハハッ!
上機嫌な俺を見て、ゼロ太郎はカワイにピシャリと告げ口した。
[カワイ君、こうなった主様は手早く追い出すに限ります。長引くと、こちらが不利になりますので]
「そうなの? 分かった」
ゼリー飲料を吸っていたカワイが、コクリと頷く。
すぐにカワイは、俺の腕をくいっと引っ張る。なんだなんだ、どうしたんだ? 俺は電話をかけるために触っていたスマホから顔を上げて、カワイを見下ろす。
「ヒトの気持ち、正直に言うと全然分からない。だけど、ゼロタローも心配してるよ。もちろん、ボクも。だから、ムリはしないでね」
「ふっ、二人共ぉ~ッ!」
ゼロ太郎にはできないので、代わりに二人分の勢いでカワイにハグをする。そうするとカワイが「んぎゅっ」と可愛い悲鳴を上げたような気がするけど、気のせいだろう。
「俺の味方は二人だけだよっ! ありがとう~ッ!」
「うんうん」
俺の腕の中にいるカワイにトンと胸を押されて、俺はそのまま体の向きをぐるりと反転させられた。
気付けば、カワイの手には俺の出勤用鞄が握られている。それが、流れるような動作で俺の手に移された。
それでも俺は、カワイとゼロ太郎への感謝並びに駄々を説き続ける。
「二人と離れるなんて耐えられないッ! 二人がいない会社も飲み会も嫌だよ~ッ!」
「うんうん」
「ヤッパリ今日はもう有給取得で会社を休んでお家から一歩も出な──」
──ドン。
いつの間にか外靴を履き、玄関扉が開き、カワイに力強く背中を押された。
……いや。今のは『押された』と言うより、どちらかと言えば『押し飛ばされた』って感じの……?
「あれっ? カワイ? ゼロ太郎?」
気付かないうちに部屋から押し出されていた俺は、くるりと扉を振り返る。
それと、ほぼ同時。扉の向こう側から『ガチャッ』と、無情な音が聞こえた。
ここまでされて俺はようやく、本当にようやく、気付いたのだ。
「──施錠、された……」
メチャメチャ強引に、出勤させられてしまった。……ということに。
「あー……」
カワイに持たされた鞄をしっかりと握り、俺はなんとも言えない感情を一音に乗せる。
それから天を仰いで、誰に伝えるでもなく、呟いた。
「カワイ、意外と力強いんだなぁ~……」
抵抗をしていなかったとはいえ、あっさりと追い出されてしまった現状を受け止めよう。
俺はガクリと肩を落とし、トボトボと歩き始めた。
いや、さすがにね。さすがに俺も、社会人ですから。急な休み申請は、迷惑がかかっちゃうってことくらい分かってますよ? 社会人ですからね?
でも、だけど……!
「──強引なところも魅力的だと思うけど、次は別れを惜しんでくれるパターンを見せてくれないかなぁ……!」
[──サッサと出勤してください]
結論。
カワイとゼロ太郎のおかげで、今日も俺は元気に出勤しています。
33
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる