22 / 232
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
10
しおりを挟むだが、甘いジャッジはカワイのためにならない。
俺は背筋を正したまま、真剣に真っ直ぐと、カワイを見つめる。
「それじゃあ、例えば? カワイが知ってる【人間界の常識】を言ってみて」
「例えば……」
適切な例え話をするために一度、カワイが考え込む。その仕草も可愛いなんて、本当に狡い子だ。二億点あげよう。
カワイは眉を寄せて、悩んで、悩んで……。ポツリと、単語をこぼした。
「……宴会」
「宴会?」
これはまた、悪魔らしからぬ単語だ。俺は頷きながら、一先ずカワイが持つ【人間界のルール】とやらを拝聴する。
「宴会でカンパイするとき、目下の者はグラスを少し下げる」
「うんうん。他には?」
「他には……。人間は、誰かに見られているときは薬を飲んじゃいけない」
「……うん、うん」
「会社で決裁を受けたり回覧したりする書類にハンコを押すときは、お辞儀をしているようなイメージでハンコを少し傾ける」
「うーん……」
「どう? ボクの人間界に対する知識はカンペキでしょう?」
「──薄々気付いていたけど、知識が偏ってないかな?」
あるけど! 確かにその風習はあるけども! だけど違う、それは【一般常識】ではないから!
なんだろう、この『ジャパニーズ忍者』と言われているような気持ちは。合っているんだけど、少し違う、みたいな。忍者はジャパンにしかいないから、ジャパニーズもなにもない、みたいなさ!
なんだか、日本の細かな風習に魅了されて偏った知識を嬉々として話す外国人を見ているような気持ちだ。間違ってはいないけど、間違っている。
俺のツッコミを受けたカワイが、静かに衝撃を受けた。
「違う、の? 魔界の図書館にある本には、そう書いてあったのに……」
「えぇえっ! このズレた常識、魔界で書籍化してるのっ?」
助けを求めるように壁を見ると、ゼロ太郎が冷静に[気になるようでしたら、ダウンロード購入いたしましょうか?]と提案してきたではないか。買えるのか、魔界の本! さすが人工知能の最高峰だ!
まぁ、そこはおいおい常識のすり合わせをしていくことにして、と。俺は立ち上がり、スーツから着替えるために移動を始めた。
「えっと、ちょっと着替えてくるね。その間に夜ご飯、なにが食べたいか考えておいて?」
今の時間でも出前を頼める料理を、ゼロ太郎が壁やら天井やらに画像表示してくれるだろう。その間に、俺は部屋着に着替えなくては。
なんて、思っていた矢先に。
「──ヒト。ボクまだ、ご褒美貰ってない。ギューは?」
「──いったァッ!」
自分の右足に左足をぶつけた俺は、その場で盛大にすっ転んだ。『ドベシャッ!』と大きい音が鳴ったが、それどころではない。
「えっ、えっ! いっ、いいのっ? 本当にギュッてしていいのっ?」
「うん、してほしい。その服カッコいいから、今のヒトにギューッてされたい」
「あぁあァッ! ゼロ太郎ありがとうッ! スーツ一式仕立ててくれてありがとうぅーッ!」
[まさか主人から雄叫び交じりに感謝を告げられる日がくるとは……]
盛大に転んで鼻とかをぶつけたけど、そんな痛みは吹っ飛んだ。
俺はカワイが求めるままに、その華奢な体をムギュッと抱き締める。うん、仕方ないよな。だって、カワイが望んだんだから。うんうん、合法、合法。
42
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる