未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
17 / 212
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】

5

しおりを挟む



 慌てふためく月君を宥め、取引先への入金確認を穏便に済ませたその後で。


「そう言えば、昨日拾った悪魔とはどうなりました? どこかに連れて行って、引き渡したんスか?」


 月君は資料を手に、そんな問いを口にした。

 俺たちは今、数時間早まった会議のために、予約していた会議室の準備を進めている最中だ。テーブルの上にペットボトルの飲み物を置きつつ、俺は月君に返事をする。


「いや、俺の部屋で留守番してるよ」
「なるほど、留守番──……って、はいっ?」


 バサッ。月君が持っていたはずの資料が、テーブルの上に広がる。

 資料が折れてしまっていないか心配する俺には気付いていないのか、月君はアワアワと、これまた慌てふためき始めた。


「えっ、えっ? センパイ、悪魔と同居することにしたんですかっ?」

「うん。なんか、流れで」
「流れでどえらいこと決めちゃいましたね」


 月君が持っていた書類も、どえらいことになっているけどね。テーブルを埋め尽くしているよ。

 飲み物の用意を終えてから、俺は月君が落としてしまった書類を回収し始める。


「そんなに驚くことかな? 悪魔なんて別に、珍しくはないでしょう? 月君の同期にだって、悪魔はいるんだし」
「うっ。いや、まぁ、そうなんスけど……」


 悪魔の行き倒れは初めて見たけど、別に悪魔自体は珍しくない。俺と月君が働いているこの会社にだって、悪魔がいるんだから。

 しかも、月君は同期。だから、月君にとって悪魔は結構身近な存在だと思うんだけど……。


「い、いや、えっと。アイツのことは一旦、保留にして。……センパイ、その悪魔君との生活は大丈夫そうですか?」


 保留にされた。同期だけど仲が悪いのかな?
 なんだか触れてはいけないデリケートな話題に思えるので、月君が言う通り、同期の悪魔君については保留としよう。


「うん、大丈夫だと思うよ。ゼロ太郎もいるし」
「そもそもの話ですよ! 悪魔だからとか、そういう次元の話じゃないんです! 出会ってたった一日の相手じゃないですか。素性とか、そういうのなにも分からないんスよ?」


 月君に「そうだねぇ~」と相槌を打ちながら、資料を全てのテーブルに並べ終える。

 さて、と。後は、プロジェクターとスクリーンの準備だけかな。俺は会議室の中を移動しながら、返事をする。


「でも、それはカワイも同じだからさ」
「……カワイ?」
「昨日拾った悪魔の名前。可愛いから、カワイ。俺が命名した」
「ゼロ太郎と言い、センパイのネーミングセンスって相変わらずッスね」


 どういう意味かな、それは? 今が仕事中じゃなければ問い質したいところだよ!

 だけど、こうして月君が俺に色々言ってくれている理由はちゃんと分かっているつもりだ。


「ありがとう、心配してくれて。だけど、俺は大丈夫だよ」
「ぬぅ。センパイがそう言うなら、いいんスけど……」


 なんて先輩想いの素敵な後輩君だろう。きっと月君は、俺よりも先に寿退社できちゃうんだろうなぁ。

 ……なんて、感慨もひとしおな中。


「だけど、なにかあったら言ってくださいね! オレ、センパイのためなら悪魔とも戦えます!」
「あー……。……あー、うん。ありがとう、月君」


 着ているスーツを押しのけんばかりにシャツの内側で育った、月君の筋肉。チラリと月君を見てから、俺は乾いた笑みを浮かべてしまう。

 正直、相手が悪魔だとしても、月君に勝てる相手なんてそうそういないと思うなぁ。

 月君が使っているデスクの引き出しに鎮座している、プロテイン各種。バリエーション豊富な袋たちを思い出しながら、俺はそんなことを考えてしまった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...