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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟む慌てふためく月君を宥め、取引先への入金確認を穏便に済ませたその後で。
「そう言えば、昨日拾った悪魔とはどうなりました? どこかに連れて行って、引き渡したんスか?」
月君は資料を手に、そんな問いを口にした。
俺たちは今、数時間早まった会議のために、予約していた会議室の準備を進めている最中だ。テーブルの上にペットボトルの飲み物を置きつつ、俺は月君に返事をする。
「いや、俺の部屋で留守番してるよ」
「なるほど、留守番──……って、はいっ?」
バサッ。月君が持っていたはずの資料が、テーブルの上に広がる。
資料が折れてしまっていないか心配する俺には気付いていないのか、月君はアワアワと、これまた慌てふためき始めた。
「えっ、えっ? センパイ、悪魔と同居することにしたんですかっ?」
「うん。なんか、流れで」
「流れでどえらいこと決めちゃいましたね」
月君が持っていた書類も、どえらいことになっているけどね。テーブルを埋め尽くしているよ。
飲み物の用意を終えてから、俺は月君が落としてしまった書類を回収し始める。
「そんなに驚くことかな? 悪魔なんて別に、珍しくはないでしょう? 月君の同期にだって、悪魔はいるんだし」
「うっ。いや、まぁ、そうなんスけど……」
悪魔の行き倒れは初めて見たけど、別に悪魔自体は珍しくない。俺と月君が働いているこの会社にだって、悪魔がいるんだから。
しかも、月君は同期。だから、月君にとって悪魔は結構身近な存在だと思うんだけど……。
「い、いや、えっと。アイツのことは一旦、保留にして。……センパイ、その悪魔君との生活は大丈夫そうですか?」
保留にされた。同期だけど仲が悪いのかな?
なんだか触れてはいけないデリケートな話題に思えるので、月君が言う通り、同期の悪魔君については保留としよう。
「うん、大丈夫だと思うよ。ゼロ太郎もいるし」
「そもそもの話ですよ! 悪魔だからとか、そういう次元の話じゃないんです! 出会ってたった一日の相手じゃないですか。素性とか、そういうのなにも分からないんスよ?」
月君に「そうだねぇ~」と相槌を打ちながら、資料を全てのテーブルに並べ終える。
さて、と。後は、プロジェクターとスクリーンの準備だけかな。俺は会議室の中を移動しながら、返事をする。
「でも、それはカワイも同じだからさ」
「……カワイ?」
「昨日拾った悪魔の名前。可愛いから、カワイ。俺が命名した」
「ゼロ太郎と言い、センパイのネーミングセンスって相変わらずッスね」
どういう意味かな、それは? 今が仕事中じゃなければ問い質したいところだよ!
だけど、こうして月君が俺に色々言ってくれている理由はちゃんと分かっているつもりだ。
「ありがとう、心配してくれて。だけど、俺は大丈夫だよ」
「ぬぅ。センパイがそう言うなら、いいんスけど……」
なんて先輩想いの素敵な後輩君だろう。きっと月君は、俺よりも先に寿退社できちゃうんだろうなぁ。
……なんて、感慨もひとしおな中。
「だけど、なにかあったら言ってくださいね! オレ、センパイのためなら悪魔とも戦えます!」
「あー……。……あー、うん。ありがとう、月君」
着ているスーツを押しのけんばかりにシャツの内側で育った、月君の筋肉。チラリと月君を見てから、俺は乾いた笑みを浮かべてしまう。
正直、相手が悪魔だとしても、月君に勝てる相手なんてそうそういないと思うなぁ。
月君が使っているデスクの引き出しに鎮座している、プロテイン各種。バリエーション豊富な袋たちを思い出しながら、俺はそんなことを考えてしまった。
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