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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むカワイの頭から手を離し、俺はある一点を指で指した。
「あっ、そうだ。カワイ、あの部屋は入っちゃ駄目だよ」
それは、寝室ではない別の部屋。カワイが来てから、一度も開けていない扉だった。
俺が指し示す方向に目を向けた後、当然ながらカワイは小首を傾げる。
「入ってほしくないの? どうして?」
まぁ、そうなるよね。想定通りの問いに、俺はニコリと笑みを浮かべた。
「どうしても。だから約束、ねっ?」
入ってほしくないのは当然、あの部屋の中を見られたくないからだ。ゆえに、カワイが求める理由を答えることはできない。
念のため、本当に念のため言っておくけど、エッチな本が山積みになっているわけじゃないぞ。そして再三言うが、盗られて困るようなものもない。
いくら俺が年下美少年愛好家だからと言って、そういった類のなにかを見えるところに乱雑な配置をするような男ではないのだ。そもそも、そんな管理の仕方では愛がない。論外だ。
などと言う俺の弁明が聞こえているわけもないカワイは、少々強引な俺の返答にも、とても素直に頷いてくれた。
「ヒトがそう言うなら、分かった。約束する」
これで、問題は解決だ。俺はカワイに向けて、小指を立てる。
するとまたしても、カワイは小首を傾げた。どうやら【指切り】を知らないらしい。
「約束をするときはね、こうしてお互いの小指を立てて、それから小指同士を絡めるんだよ」
「こう?」
「うん、そう。これが【指切り】って言う、約束のやり方」
「指切り……。うん、覚えた」
カワイの可愛いおてて──ゴホン! カワイの小指と指切りをした後、俺はニコッと笑みを向けた。
笑顔を向けられたカワイは、なにを思ったのだろう。ただジッと、俺を見つめている。
それにしても、うぅ~ん……。見れば見るほど、俺好みの顔だなぁ。こういうの、なんて言うんだっけ。【好】って書いて【ハオ】? いや、古いか、これ。
なんて、しょうもないことを考えていると……。
「──ヒトの目、左右で色が違うんだね」
「──えっ」
カワイの指摘に、思わずドキリと嫌な緊張感を抱いてしまった。
「あー、うん。……そう、だよ」
カワイの指摘通り、確かに俺は左右で瞳の色が違う。右目が黒で、左目が赤なのだ。
……ヤッパリ、目立つよなぁ。俺は咄嗟に、カワイから視線を外してしまった。
「ごめんね、変でしょ。……俺はこれ、好きじゃないんだよね」
なんだか、気まずい。そう、俺は思ったのだが──。
「──どうして謝るの? 両目の色が同じでもヒトはカッコいいと思うけど、左右で色が違ってもヒトはカッコいいよ」
その気まずさは、俺が勝手に、且つ一方的に抱いていただけだった。
もう一度、カワイに目を向ける。するとカワイは、まだ俺のことを見ていた。
引いては、いない。表情の変化が少ない子だとは思うけど、それでもその顔には【嫌悪】が感じられなかった。
驚く俺を真っ直ぐと見上げたまま、カワイは付け足すように、俺の瞳に対して好意的な感想を──。
「──まさに、一粒で二度おいしい」
「──ちょっと違うかなぁっ!」
──くれたにはくれたけど、なんか違う!
だけど、カワイの物言いがなんだか可笑しくて。俺は思わず、破顔してしまった。
「あははっ! ありがとう、カワイ。この目、初めて誰かに褒めてもらえたから嬉しいよ」
俺はカワイと指切りをした手でもう一度、カワイの頭をポンと撫でる。
「俺もカワイの目、宝石みたいで好きだよ。綺麗で、可愛くて……ずっと見ていたくなっちゃうな」
「……っ」
あっ。カワイのほっぺ、少し赤くなった? えっ、空調の温度設定高いかな?
俺は反射のように顔を上げて、部屋に備え付けられているエアコンを見ようとして……。
「って、うわっ! もうこんな時間っ? ごめんね、カワイ! そろそろ出勤しなくちゃ!」
迫る始業時間に気付き、慌てて出勤準備を再開するのであった。
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