未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
15 / 212
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】

3

しおりを挟む



 カワイの頭から手を離し、俺はある一点を指で指した。


「あっ、そうだ。カワイ、あの部屋は入っちゃ駄目だよ」


 それは、寝室ではない別の部屋。カワイが来てから、一度も開けていない扉だった。
 俺が指し示す方向に目を向けた後、当然ながらカワイは小首を傾げる。


「入ってほしくないの? どうして?」


 まぁ、そうなるよね。想定通りの問いに、俺はニコリと笑みを浮かべた。


「どうしても。だから約束、ねっ?」


 入ってほしくないのは当然、あの部屋の中を見られたくないからだ。ゆえに、カワイが求める理由を答えることはできない。

 念のため、本当に念のため言っておくけど、エッチな本が山積みになっているわけじゃないぞ。そして再三言うが、盗られて困るようなものもない。

 いくら俺が年下美少年愛好家だからと言って、そういった類のなにかを見えるところに乱雑な配置をするような男ではないのだ。そもそも、そんな管理の仕方では愛がない。論外だ。

 などと言う俺の弁明が聞こえているわけもないカワイは、少々強引な俺の返答にも、とても素直に頷いてくれた。


「ヒトがそう言うなら、分かった。約束する」


 これで、問題は解決だ。俺はカワイに向けて、小指を立てる。
 するとまたしても、カワイは小首を傾げた。どうやら【指切り】を知らないらしい。


「約束をするときはね、こうしてお互いの小指を立てて、それから小指同士を絡めるんだよ」
「こう?」
「うん、そう。これが【指切り】って言う、約束のやり方」
「指切り……。うん、覚えた」


 カワイの可愛いおてて──ゴホン! カワイの小指と指切りをした後、俺はニコッと笑みを向けた。
 笑顔を向けられたカワイは、なにを思ったのだろう。ただジッと、俺を見つめている。

 それにしても、うぅ~ん……。見れば見るほど、俺好みの顔だなぁ。こういうの、なんて言うんだっけ。【好】って書いて【ハオ】? いや、古いか、これ。

 なんて、しょうもないことを考えていると……。


「──ヒトの目、左右で色が違うんだね」
「──えっ」


 カワイの指摘に、思わずドキリと嫌な緊張感を抱いてしまった。


「あー、うん。……そう、だよ」


 カワイの指摘通り、確かに俺は左右で瞳の色が違う。右目が黒で、左目が赤なのだ。

 ……ヤッパリ、目立つよなぁ。俺は咄嗟に、カワイから視線を外してしまった。


「ごめんね、変でしょ。……俺はこれ、好きじゃないんだよね」


 なんだか、気まずい。そう、俺は思ったのだが──。


「──どうして謝るの? 両目の色が同じでもヒトはカッコいいと思うけど、左右で色が違ってもヒトはカッコいいよ」


 その気まずさは、俺が勝手に、且つ一方的に抱いていただけだった。
 もう一度、カワイに目を向ける。するとカワイは、まだ俺のことを見ていた。

 引いては、いない。表情の変化が少ない子だとは思うけど、それでもその顔には【嫌悪】が感じられなかった。

 驚く俺を真っ直ぐと見上げたまま、カワイは付け足すように、俺の瞳に対して好意的な感想を──。


「──まさに、一粒で二度おいしい」
「──ちょっと違うかなぁっ!」


 ──くれたにはくれたけど、なんか違う!

 だけど、カワイの物言いがなんだか可笑しくて。俺は思わず、破顔してしまった。


「あははっ! ありがとう、カワイ。この目、初めて誰かに褒めてもらえたから嬉しいよ」


 俺はカワイと指切りをした手でもう一度、カワイの頭をポンと撫でる。


「俺もカワイの目、宝石みたいで好きだよ。綺麗で、可愛くて……ずっと見ていたくなっちゃうな」
「……っ」


 あっ。カワイのほっぺ、少し赤くなった? えっ、空調の温度設定高いかな?
 俺は反射のように顔を上げて、部屋に備え付けられているエアコンを見ようとして……。


「って、うわっ! もうこんな時間っ? ごめんね、カワイ! そろそろ出勤しなくちゃ!」


 迫る始業時間に気付き、慌てて出勤準備を再開するのであった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

それはダメだよ秋斗くん![完]

中頭かなり
BL
年下×年上。表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/116042007様からお借りしました。

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...