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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟む着替えを終えてからリビングに出ると、ソファに座っていたカワイが俺を振り返った。
カワイはゼリーを吸いながら、小首を傾げている。俺とゼロ太郎の会話を聞いていなかったので、なぜ俺が疲労感たっぷりな様子で部屋から出てきたのか、理解できていないらしい。
「ふふふ、大丈夫だよ、カワイ。今はまだ言えない話だけど、いずれ今日見た夢は現実として俺とカワイに──」
[──もしもし、警察ですか]
「──なんちゃって! なにもなかったよ~っ!」
危ない危ない本気で危ない! カワイの中で【人間界の成人男性は性犯罪者】という間違った認識が芽生えるところだった!
容赦のない人工知能は一旦、保留だ。俺はソファに座るカワイの頭をポンと撫でる。
「それじゃあ、俺は仕事に行ってくるね。ゼロ太郎とお留守番、お願いしてもいいかな」
「仕事って、どこ?」
「あー、えっと。会社ってところに行って、お仕事してくるねって意味」
「それは、ボクも行っちゃダメなの? ヒトと一緒に居たい」
「──ハッ! その手があったか!」
[──ありませんよ]
そうだよ、俺はいったいなにを勘違いしていたんだ?
カワイは悪魔だから、お留守番させなくちゃ駄目。会社には、所属している職員しか入っちゃいけない。……いったい、誰がそんなことを決めた? 法律に定められていないじゃないか!
「つまり、カワイを一人携帯する社会ならストレスフリーってことじゃん! ……いや、駄目だ。俺以外の奴がカワイと日々を過ごして仲睦まじく暮らすとか、想像しただけで胃に穴が開く。吐きそう」
[──ストレスフリーではないようですね]
無理、ごめん。ストレスがすっごい。出会って一日だけど、他の誰かにうちのカワイは渡したくない。
俺が己の思考で自爆していると、話に置いてきぼりされているカワイが、ソファに座ったまま小首を傾げた。
「ボクがいると、ヒトのストレスになる?」
「まさか! なるわけないよ! カワイは俺の癒しだからね!」
ポンポン、ナデナデ。カワイの頭を撫でて、俺はカワイの疑問を一掃する。
「ちょっと話が脱線しちゃったから戻すけど、カワイはお留守番なんだ。会社は仕事をする場所だから、その会社で【仕事をしていいよ】って許可を貰った人しか入れないんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、お留守番する」
俺に頭を撫でられても無抵抗なカワイは、ジッと俺を見つめた。
「ヒトと一緒に居たいから、早く帰ってきてね」
「──ゼロ太郎。有給申請ってお願いしてもいい?」
[──良くありません。早く出勤してください]
カワイのおねだりを無視しろって? この悪魔! ……あっ、悪魔はカワイだったか、失敬。
カワイのお願いは叶えてあげたいので、なるべく急いで帰ろう。俺は心の中で己に固く誓った。
「カワイは部屋でゆっくりしていていいからね。テレビとかも、好きに見ていいから。それと、うーん……。なにか分からないことがあったら、ゼロ太郎に質問してみて?」
「うん、分かった」
さてと、そろそろ出勤しなくちゃな。
そう思い直した俺だったが、ひとつだけ。この部屋でお留守番をしてもらう上で、最も重要なことを伝えていなかったと思い出した。
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