BL短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【天使は翼を手折るのがお好きらしい】 *

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 三人に感謝を述べたボクは、すぐに首を横に振る。無論、三人の申し出を断るためだ。


「んーん、大丈夫っ。ボクのことは気にしないで、皆は先に帰ってて?」
「佐渡、一人で大丈夫か?」


 ──自分で頼んできたくせに、なにを言っているのか。

 心配そうな顔でボクのことを見下ろしながら、先生が訊ねる。当然ながら、ボクはそれに対しても笑顔で応じた。


「大丈夫ですっ! だって、一人じゃないですからっ」


 そう言って、教室の隅にある席まで歩き出す。


真宵まよい君」


 隅っこの席で黙々と自習をしていた、地味なクラスメイト。真宵むぎ君に近寄って、ボクは声をかける。


「……なに」


 真宵君は顔を上げて、冷めた視線をボクに向けた。

 ……真宵君は、模範的な生徒だ。
 根っからのガリ勉で、運動が少しだけ苦手。絵に描いたような学力特化型。

 そんな彼は、友達が少ない。いつも勉強をしていて、無表情で無口。周りからしてみたら、付き合い辛いのだ。

 ……でも、ボクはそんな真宵君が嫌いじゃなかった。

 顔は整っているし、銀縁のメガネも似合っている。念のため補足するけど、メガネを外したところは何回か見たことがあるよ? けれど、裸眼でも全然カッコいい人なんだ。
 ボクが男子校の姫なら、王子は間違いなく真宵君だろう。ボクにとって真宵君の容姿は、そう見えた。

 少し不機嫌そうな真宵君の隣に立ち、ボクは笑みを向ける。


「良かったら、ボクと一緒に体育倉庫の掃除をしてもらえないかな~? なんてっ」
「なんで俺が」
「そこをなんとか! ……ねっ、お願いっ!」


 両手をパンと合わせて、真宵君に向かって頭を下げてみた。
 すると、先ほどまでデレデレしていたクラスメイトたちが近寄って来る。


「オイ、地味男。まさか、こころちゃんのお願いを拒否する気か?」


 妙に威圧的だな。……とは、言わず。強気な三人に向かって、ボクは頬を膨らませる。


「ダメだよ、無理強いしたらっ」


 そのやり取りを見て、真宵君が露骨な溜め息を吐いた。


「はぁっ。……別に、いいけど」
「ほんと?」


 ボクは視線を三人から、真宵君に向ける。

 真宵君は立ち上がって、ボクの横に並ぶ。
 身長は百八十センチくらいあって、ボクと並ぶとまるで女の子と男の子みたいな身長差だ。親子と言っても、もしかしたら通じてしまうかもしれない。……なんて。真宵君はそんなに老け顔じゃないけど。


「おー、真宵もいるなら安心だな」


 先生はそう言いながら、ボクに体育倉庫の鍵を渡してきた。

 真宵君は同い年の人からは付き合い辛いと思われているけれど、教師からは真面目だからと信頼されている。
 力もあるし、重い物なら真宵君が持ってくれるだろうと思ったのか、先生は満足そうだ。


「それじゃあ、行ってきま~す」


 ボクはそんな挨拶をしてから、真宵君と一緒に体育倉庫へ向かった。




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