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しおりを挟む束の一番上にある表紙のようなページを、俺に見えるようしっかりと手で持ち、箱根は得意気に笑い出す。
「ハッハッハッ! 目ん玉ひん剥いてよぉく見やがれッ!」
そこに書いてあったのは……。
『プレゼン資料~登坂霧もイチコロ! 箱根雨竜の魅力百選~』
──本心から『くだらない』と思える、下劣な文章だった。
「──なんだ、ゴミか」
俺は椅子から立ち上がるため、箱根の方に向けていた体をひねって、背を向けようとする。
「ちょ、イヤ、違うだろ! よく見ろって!」
「スゴイスゴイ」
「もう少し棒読みだって分からせないよう努力してくれ!」
──どう見たってくだらない内容だろ、それ。
そんなよく分からないもののために休みを返上したって言うのだから、対応だって雑にもなるだろう。
……もしかして今日、遅刻してきたのは夜更かしして寝坊したとかか? もしもそうなら、救えないほどの馬鹿だ。……あぁ、馬鹿だったか。
俺の冷めた態度とは対照的に、箱根は意気揚々とプレゼン資料らしき紙の束を掲げ続けている。
「オレらの関係が全く進展しねぇで、交際とかセックスどころか連絡先も交換してねぇのはなんでなのかって考えてみた結果、この結論に至ったってこった!」
「なるほど」
──全然分からん。
しかし、素直に『分からない』と言ったらどうなると思う? …調子に乗って、聞きたくもないことを話し出しそうだとは思わないか?
「これがなんなのか、もっと説明がほしいんだろ? この、ほしがりめ!」
無視するのは、簡単。……が、絶対にコイツは喚く。
そもそも、わざわざ訊かなくても勝手に話し出すような奴だ。
……いや、待てよ?
冷静に考えてみると、とりあえず必要最低限の相槌だけ打てばいいのではないか? よし、そうしよう。
「あぁ、うんうん気になる」
「ふふーん、そうだろうそうだろう!」
箱根は俺の雑な返事にも上機嫌になったらしい。何度も何度も、神妙な顔をして頷いている。
「これはな、登坂がオレをもっと好きになるような……オレと付き合うメリットを書き出した、手作りのプレゼン資料だ!」
──ヤッパリ、ゴミじゃないのか?
と思うが、口には出さない。
俺はもう一度、雑な返事をする。
「へぇ、凄いなぁ」
それを聞いて、箱根は目を輝かせた。
「そうだろう? 今から登坂に見せ──」
「──まぁ、俺は帰ってゲームするから、そんなことに付き合うつもりはないけど」
「待て待て待て!」
立ち上がって帰ろうとする俺に向かって、箱根は手を伸ばしてきた。
「血も涙も無いのか! 学生の土日だぞ! 金曜日の放課後から計算すると二日半! それだけの時間を捧げたっていうのに、ムダにさせるのかお前はッ!」
今日は一段と五月蠅い。再認識した。
俺は立ち上がったまま、箱根を見下ろす。視線の先では、箱根が椅子に座ってプレゼン資料を持ちながらも、必死に俺を帰らせまいと力説している状況。
「……箱根、約二日半その作業をしてたんだって言ったな?」
仕方ない。
俺は箱根を見下ろしながら、声をかける。
「あぁ、そうだ!」
「で、俺に見てもらえないと無駄になるって……そう言ってるんだよな?」
「そうだ!」
「ふぅん……」
若干涙目になっている箱根を見下ろしたまま、そろそろこのやり取りが面倒になってきた俺は。
──決定的な言葉を、口にした。
「──じゃあ、作業中は苦痛だったってことか?」
「……は?」
俺の言葉を聞いた箱根は、情けない顔から一変。
いきなり険しい表情になったかと思うと、突然……勢い良く、立ち上がったではないか。
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