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第11話【恋仲】
後編
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椎葉は気にした様子も無く、真駒の後ろをついて歩いた。
「拗ねちゃった?」
「……っ」
「あれ、無視? 上司を無視するだなんて、感心しないなぁ」
ここで反応したら、椎葉の思うつぼだ。真駒は必死に、聞こえていないフリを続ける。
事務所を出て、会社の外まで並んで歩く。
すると椎葉が突然、悲し気に呟いた。
「ヤッパリ僕なんて……首以外は、どうでもいいのかな……」
「そんなわけ……ッ!」
真駒は椎葉を振り返ってから『しまった』と言いそうになる。椎葉が満足そうに、真駒のことを笑顔で見下ろしていたからだ。
「か、からかわないで……ください……っ」
「あはっ。ごめんね」
トイレで想いを伝え合ってから、椎葉はずっと上機嫌だった。それ自体は一向に構わないのだが、こうして茶化されるのには慣れない。真駒はアパートに帰ろうと、もう一度歩き出して――あることに気付く。
――椎葉が、ずっとついてきているのだ。
真駒はもう一度、椎葉を振り返る。
「課長……? いったい、どこまで……?」
「ん? 君の部屋まで」
「な、何で……ですか?」
至極当然な問いに、椎葉は一瞬だけ目を丸くした。立ち止まって椎葉を見上げる真駒は、本当に椎葉の意図が分かっていないような表情を浮かべている。
椎葉はやれやれといった様子で肩を竦めて、自身を見上げる真駒の耳元に、唇を寄せた。
「恋人が部屋に来るんだよ? 薄々、分かっているんじゃない?」
「ッ!」
椎葉の囁きに、真駒は耳まで赤くなる。すると、椎葉が突然笑い出した。
「本当に、君って……あははっ! 可愛いっ」
真駒は驚いて、椎葉から距離を取る。からかわれたのだと気付いたからだ。
けれどいつの間にか腕を掴まれていたらしく、真駒は思うように距離を取れなかった。
「トイレで君が言ったことも、可愛かったなぁ」
「わ……忘れて、ください……っ!」
「無理だよ、あははっ!」
そのまま、愛おしそうに手を握り始める。
「だって……『捨てないで』って……あはっ。そんなこと言われると思ってなかったからっ」
椎葉の告白に、真駒は返事をした。
たった一言、真駒は椎葉に『捨てないで』と……縋るように呟き、広い胸に抱き付いたのだ。
今思うと、どうしてあんなに大胆なことができたのか……もっとマシな言葉はなかったのか……悔やんでも、悔やみきれない。
真駒はもう一度手を振り払おうともがくも、手を離してくれそうにはないので、諦める。
「真駒君」
不意に、名を呼ばれた。
真駒は顔を赤くしたまま、椎葉を振り返る。
「今晩……取引じゃなくて、恋人として君を抱きたいんだけど……いいかな?」
からかうわけでも、茶化すわけでもなく……椎葉の瞳は、真剣だった。
返事をしようと口を開くも、言葉が出てこなくて押し黙る。それでも、何とか意思表示をしないといけないと思った真駒は、小さく……頷く。
そんな真駒を、椎葉はどこまでも愉快そうに眺めていた。
「拗ねちゃった?」
「……っ」
「あれ、無視? 上司を無視するだなんて、感心しないなぁ」
ここで反応したら、椎葉の思うつぼだ。真駒は必死に、聞こえていないフリを続ける。
事務所を出て、会社の外まで並んで歩く。
すると椎葉が突然、悲し気に呟いた。
「ヤッパリ僕なんて……首以外は、どうでもいいのかな……」
「そんなわけ……ッ!」
真駒は椎葉を振り返ってから『しまった』と言いそうになる。椎葉が満足そうに、真駒のことを笑顔で見下ろしていたからだ。
「か、からかわないで……ください……っ」
「あはっ。ごめんね」
トイレで想いを伝え合ってから、椎葉はずっと上機嫌だった。それ自体は一向に構わないのだが、こうして茶化されるのには慣れない。真駒はアパートに帰ろうと、もう一度歩き出して――あることに気付く。
――椎葉が、ずっとついてきているのだ。
真駒はもう一度、椎葉を振り返る。
「課長……? いったい、どこまで……?」
「ん? 君の部屋まで」
「な、何で……ですか?」
至極当然な問いに、椎葉は一瞬だけ目を丸くした。立ち止まって椎葉を見上げる真駒は、本当に椎葉の意図が分かっていないような表情を浮かべている。
椎葉はやれやれといった様子で肩を竦めて、自身を見上げる真駒の耳元に、唇を寄せた。
「恋人が部屋に来るんだよ? 薄々、分かっているんじゃない?」
「ッ!」
椎葉の囁きに、真駒は耳まで赤くなる。すると、椎葉が突然笑い出した。
「本当に、君って……あははっ! 可愛いっ」
真駒は驚いて、椎葉から距離を取る。からかわれたのだと気付いたからだ。
けれどいつの間にか腕を掴まれていたらしく、真駒は思うように距離を取れなかった。
「トイレで君が言ったことも、可愛かったなぁ」
「わ……忘れて、ください……っ!」
「無理だよ、あははっ!」
そのまま、愛おしそうに手を握り始める。
「だって……『捨てないで』って……あはっ。そんなこと言われると思ってなかったからっ」
椎葉の告白に、真駒は返事をした。
たった一言、真駒は椎葉に『捨てないで』と……縋るように呟き、広い胸に抱き付いたのだ。
今思うと、どうしてあんなに大胆なことができたのか……もっとマシな言葉はなかったのか……悔やんでも、悔やみきれない。
真駒はもう一度手を振り払おうともがくも、手を離してくれそうにはないので、諦める。
「真駒君」
不意に、名を呼ばれた。
真駒は顔を赤くしたまま、椎葉を振り返る。
「今晩……取引じゃなくて、恋人として君を抱きたいんだけど……いいかな?」
からかうわけでも、茶化すわけでもなく……椎葉の瞳は、真剣だった。
返事をしようと口を開くも、言葉が出てこなくて押し黙る。それでも、何とか意思表示をしないといけないと思った真駒は、小さく……頷く。
そんな真駒を、椎葉はどこまでも愉快そうに眺めていた。
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