47 / 49
12話【告白】
1
しおりを挟む
顔を合わせる勇気が出なくて、固く目を閉じる。
――だから俺は、すぐに気付けなかった。
「麒麟さん。顔を、上げてください」
声が聞こえたから、恐る恐る目を開ける。
――そうして、やっと気付いた。
――いつの間にか……雪豹さんがその白い手で、俺の手を握っていたのだと。
「麒麟さんはこれからも――今まで以上にもっと、他種族として扱われることになると思います。これは、ボクにはどうしようもできないです。ごめんなさい」
「そんなこと――」
「でも、ボクは絶対に貴方を差別しない。ボクにとって貴方は、貴方です。人間だとか他種族だとか……そんなこと一切関係ありません」
どのくらいの力で、俺の手を握ってくれているのかは……分からない。それが凄く、悲しい気がする。
だけどどうしてか……それ以上に心強い気もするから、不思議でたまらない。
「ボクは、貴方が好きです。人間だったからとか、他種族に変わったからとかじゃなく……あの日、病院で声を掛けてくれたあの時から……その。ずっと、ずっと……通院している貴方を見て、慕っていました」
同僚の言っていた『夢に出てくるのは相手が自分を想ってるから』という言葉を、今思い出さなくたっていいだろう。
頭の片隅でどこか冷静な自分がいて、煩わしい。
「あ、で、でも。その、気持ち悪い……ですよね、ごめんなさい。あの、その……言うつもりは、なかったんですけど……えっと。スミ、マセン……っ」
ハッキリとした口調が、いつもの自信なさげな小さいものに変わっていく。それを聴いていると『この告白は、間違いなく雪豹さんからのものなんだ』と、実感する。
だから俺も、真摯に……俺らしく、対応したい。
「リビングデッドになって、目が覚めたあの日……俺は雪豹先生を見て、本当に、とても。……安心、しました」
小さく震えている手を、握り返す。そうすると雪豹さんが息を呑んだものだから、思わず笑ってしまいそうになった。
雪豹さんはいつも、分かり易すぎるくらい分かり易い反応をしていたじゃないか。気持ちを知った今、過去のやり取りを思い出すと……やはり笑いが込み上げてくる。
口角を上げたまま、不安そうに俺を見上げる雪豹さんを見つめた。
「貴方は……化け物なんかじゃ、ない。俺にとって貴方は……素敵な、大切な存在です」
こんなことを言う資格、俺にはないかもしれない。
どこかで冷静な自分が……またも脳裏で思い起こす。
『夢に見るほど想ってる~ってやつ!』
――それなら、随分とロマンチックだな。
「――俺も、雪豹さんが好きです」
リビングデッドになった俺の心臓は、もう自分では動かせないけれど。
――今だけは、早鐘を打った気になってもいいだろうか。
――だから俺は、すぐに気付けなかった。
「麒麟さん。顔を、上げてください」
声が聞こえたから、恐る恐る目を開ける。
――そうして、やっと気付いた。
――いつの間にか……雪豹さんがその白い手で、俺の手を握っていたのだと。
「麒麟さんはこれからも――今まで以上にもっと、他種族として扱われることになると思います。これは、ボクにはどうしようもできないです。ごめんなさい」
「そんなこと――」
「でも、ボクは絶対に貴方を差別しない。ボクにとって貴方は、貴方です。人間だとか他種族だとか……そんなこと一切関係ありません」
どのくらいの力で、俺の手を握ってくれているのかは……分からない。それが凄く、悲しい気がする。
だけどどうしてか……それ以上に心強い気もするから、不思議でたまらない。
「ボクは、貴方が好きです。人間だったからとか、他種族に変わったからとかじゃなく……あの日、病院で声を掛けてくれたあの時から……その。ずっと、ずっと……通院している貴方を見て、慕っていました」
同僚の言っていた『夢に出てくるのは相手が自分を想ってるから』という言葉を、今思い出さなくたっていいだろう。
頭の片隅でどこか冷静な自分がいて、煩わしい。
「あ、で、でも。その、気持ち悪い……ですよね、ごめんなさい。あの、その……言うつもりは、なかったんですけど……えっと。スミ、マセン……っ」
ハッキリとした口調が、いつもの自信なさげな小さいものに変わっていく。それを聴いていると『この告白は、間違いなく雪豹さんからのものなんだ』と、実感する。
だから俺も、真摯に……俺らしく、対応したい。
「リビングデッドになって、目が覚めたあの日……俺は雪豹先生を見て、本当に、とても。……安心、しました」
小さく震えている手を、握り返す。そうすると雪豹さんが息を呑んだものだから、思わず笑ってしまいそうになった。
雪豹さんはいつも、分かり易すぎるくらい分かり易い反応をしていたじゃないか。気持ちを知った今、過去のやり取りを思い出すと……やはり笑いが込み上げてくる。
口角を上げたまま、不安そうに俺を見上げる雪豹さんを見つめた。
「貴方は……化け物なんかじゃ、ない。俺にとって貴方は……素敵な、大切な存在です」
こんなことを言う資格、俺にはないかもしれない。
どこかで冷静な自分が……またも脳裏で思い起こす。
『夢に見るほど想ってる~ってやつ!』
――それなら、随分とロマンチックだな。
「――俺も、雪豹さんが好きです」
リビングデッドになった俺の心臓は、もう自分では動かせないけれど。
――今だけは、早鐘を打った気になってもいいだろうか。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】キミの記憶が戻るまで
ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた
慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で…
しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい…
※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。
朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2
朝陽-1→2→3
など、お好きに読んでください。
おすすめは相互に読む方です
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる